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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第55回   天才だじゃ丸
スミレちゃんは、考えながら言った。
「凡人が、百億人いても、発明は産まれないわ。どんなに頑張っても、文明は産まれないわ。」
一平が答えた。「そうだね。きっと、未だに野蛮な石器時代だね。」
姉さんが、お父さんに尋ねた。
「お父さん。外に出るときには、どうしたらいいの?」
「夏の摂氏四十五℃対策のことだね。外には出ないことだよ。」
「買い物もあるし、そういうわけにはいかないわ。」
青鬼が答えた。
「おいらは暑さには強いから、おいらが行きます。」
お父さんが、立ち上がった。
「それじゃあ、夏の四十五℃対策について、午後から、みんなで話し合いをしましょう。」
スミレちゃんが、小さな右手を、ぴょこんと上げ、いつもの少ししゃがれた声で答えた。
「それがいいわ。」
一平が、スミレちゃんを見た。
「スミレちゃんは、ときどき不思議な声を出すね。」
「そうかしら。」
「あっ、また出た。」
みんなは、それぞれに笑い合った。なぜか、お父さんだけは、笑っていなかった。
「高坂さん。今日は急ぎの御用がありますか?」
「いえ、別に。五日までは休みなんです。」
「では、夏の四十五℃対策について、一緒に話し合いをしましょう。」
「いいですよ。わたしも焼けて死にたくありませんから。」
「では、一時から始めます。昼食も出ますよ。」
「ありがとうございます!じゃあ、ぼ〜〜っとしてても退屈なので、何か手伝います。」
お父さんは、三輪自転車の前タイヤに空気を入れている駄洒落坊主を見た。
「だじゃ丸くん。昨日作った、そこにある椅子を、三輪自転車の荷台を外して、ボルトで取り付けてやってくれ。」
駄洒落坊主は、返事をした。
「あっ、はい。これですね。」
青鬼が出てきた。
「それ、僕がやります。だじゃ丸くん、パソコンのプログラムを頼む。」
「あっ、分かった。」
「ランの接続がうまく行かないんだ。物理的には、ちゃんと繋がってるんだけどなあ…」
お父さんが、部屋の隅にあるパソコンを指差した。
「わたしにも、さっぱり分からなかったよ。プログラムレベルだから。天才プログラマーに頼むしかないな。」
「はい。今調べます。」
「プログラムだけは、何度勉強しても、さっぱり分からないよ。おそらく、違う頭なんだな。」
だじゃ丸は、パソコンの前に座った。
けんけん姉さんが、不思議そうな顔で言った。
「彼は、プログラムに関しては凄く秀でているの。日頃は、駄洒落ばっかり言ってるのに。」
お父さんも、不思議そうな顔をしていた。
「おそらく、駄洒落とプログラムは、同じ脳を使っているんだよ。」
「そうかも知れないわね。パソコンやってるときには、駄洒落が出ないから。」
「プログラムは、同時に沢山の違うことを考える能力が必要なんだよ。わたしには、とても無理だ。」
だじゃ丸は、人が変わったように、無言で画面を見ていた。
「お父さん。もう、集中してるわ。」
「ありゃあ、天才だな。」
「何言っても、聞こえてないみたいね。」
だじゃ丸が答えた。
「聞こえてますよ。」
「あっ、ごめん。」
「彼がいると助かるよ。今は、何でもかんでもプログラムされてるから。」
「さっき、テレビで、プログラマーが足りなくって、外国人を雇ってるって、言ってたわ。時給五千円だって。」
「時給五千円!そりゃあ、凄いなあ。」
「だじゃ丸くん。時給五千円だってよ。聞いてる?」
「聞いてますよ。でも、そんなとこに行ったら殺されますよ。」
「そうだね。…時間かかりそう?」
だじゃ丸の指が止まった。画面を凝視して、何かを考えていた。
「う〜〜ん、少し。」
お父さんが、掛け声をかけた。
「じゃあ、みんな仕事を始めよう!」
イケメンの青鬼が、スパナを握って三輪自転車の前に立っていた。
「椅子、付けました。」
お父さんは、自転車の近くまで行くと、スミレちゃんに向かって、笑顔で手招きした。
「スミレちゃん。こっちに来て。」
スミレちゃんは、ちょこちょこと、お父さんの前に行った。
「なあに?」
「ここに座ってごらん。」
自転車の荷台に取り付けた、背もたれ付の椅子を指差した。
「ここに、座るの?」
「うん。」
「どれ、どれぇ…」
「どうかな?」
「とってもいいわ!」
「そぉう。良かったぁ〜あ。」
お父さんは、一平に言った。
「後で、だじゃ丸くんも行くから、これで松原の掃除に行ってくれませんか。」
「あっ、はい。いいですよ。」
「そこにある、ゴミを入れる荷台を引いて行ってください。中にゴミを入れる袋が入ってます。」
「はい、分かりました。」
「松原の砂浜に打ち上げられたゴミを拾ってくればいいんです。」
「あ〜〜、よく漂着してるペットボトルみたいなやつですね。」
「そうです。木などはいいです。集めてる人がいますので。」
「はい。」
だじゃ丸が、大きな声を出した。
「完了〜!」
お父さんが、即座に答えた。
「もう出来たの。さすがだなあ。」
「おいらも一緒に行きます。」
スミレちゃんが、右手を上げて嬉しそうに叫んだ。
「わ〜〜〜い!れっつご〜〜!」


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