スミレちゃんは、考えながら言った。 「凡人が、百億人いても、発明は産まれないわ。どんなに頑張っても、文明は産まれないわ。」 一平が答えた。「そうだね。きっと、未だに野蛮な石器時代だね。」 姉さんが、お父さんに尋ねた。 「お父さん。外に出るときには、どうしたらいいの?」 「夏の摂氏四十五℃対策のことだね。外には出ないことだよ。」 「買い物もあるし、そういうわけにはいかないわ。」 青鬼が答えた。 「おいらは暑さには強いから、おいらが行きます。」 お父さんが、立ち上がった。 「それじゃあ、夏の四十五℃対策について、午後から、みんなで話し合いをしましょう。」 スミレちゃんが、小さな右手を、ぴょこんと上げ、いつもの少ししゃがれた声で答えた。 「それがいいわ。」 一平が、スミレちゃんを見た。 「スミレちゃんは、ときどき不思議な声を出すね。」 「そうかしら。」 「あっ、また出た。」 みんなは、それぞれに笑い合った。なぜか、お父さんだけは、笑っていなかった。 「高坂さん。今日は急ぎの御用がありますか?」 「いえ、別に。五日までは休みなんです。」 「では、夏の四十五℃対策について、一緒に話し合いをしましょう。」 「いいですよ。わたしも焼けて死にたくありませんから。」 「では、一時から始めます。昼食も出ますよ。」 「ありがとうございます!じゃあ、ぼ〜〜っとしてても退屈なので、何か手伝います。」 お父さんは、三輪自転車の前タイヤに空気を入れている駄洒落坊主を見た。 「だじゃ丸くん。昨日作った、そこにある椅子を、三輪自転車の荷台を外して、ボルトで取り付けてやってくれ。」 駄洒落坊主は、返事をした。 「あっ、はい。これですね。」 青鬼が出てきた。 「それ、僕がやります。だじゃ丸くん、パソコンのプログラムを頼む。」 「あっ、分かった。」 「ランの接続がうまく行かないんだ。物理的には、ちゃんと繋がってるんだけどなあ…」 お父さんが、部屋の隅にあるパソコンを指差した。 「わたしにも、さっぱり分からなかったよ。プログラムレベルだから。天才プログラマーに頼むしかないな。」 「はい。今調べます。」 「プログラムだけは、何度勉強しても、さっぱり分からないよ。おそらく、違う頭なんだな。」 だじゃ丸は、パソコンの前に座った。 けんけん姉さんが、不思議そうな顔で言った。 「彼は、プログラムに関しては凄く秀でているの。日頃は、駄洒落ばっかり言ってるのに。」 お父さんも、不思議そうな顔をしていた。 「おそらく、駄洒落とプログラムは、同じ脳を使っているんだよ。」 「そうかも知れないわね。パソコンやってるときには、駄洒落が出ないから。」 「プログラムは、同時に沢山の違うことを考える能力が必要なんだよ。わたしには、とても無理だ。」 だじゃ丸は、人が変わったように、無言で画面を見ていた。 「お父さん。もう、集中してるわ。」 「ありゃあ、天才だな。」 「何言っても、聞こえてないみたいね。」 だじゃ丸が答えた。 「聞こえてますよ。」 「あっ、ごめん。」 「彼がいると助かるよ。今は、何でもかんでもプログラムされてるから。」 「さっき、テレビで、プログラマーが足りなくって、外国人を雇ってるって、言ってたわ。時給五千円だって。」 「時給五千円!そりゃあ、凄いなあ。」 「だじゃ丸くん。時給五千円だってよ。聞いてる?」 「聞いてますよ。でも、そんなとこに行ったら殺されますよ。」 「そうだね。…時間かかりそう?」 だじゃ丸の指が止まった。画面を凝視して、何かを考えていた。 「う〜〜ん、少し。」 お父さんが、掛け声をかけた。 「じゃあ、みんな仕事を始めよう!」 イケメンの青鬼が、スパナを握って三輪自転車の前に立っていた。 「椅子、付けました。」 お父さんは、自転車の近くまで行くと、スミレちゃんに向かって、笑顔で手招きした。 「スミレちゃん。こっちに来て。」 スミレちゃんは、ちょこちょこと、お父さんの前に行った。 「なあに?」 「ここに座ってごらん。」 自転車の荷台に取り付けた、背もたれ付の椅子を指差した。 「ここに、座るの?」 「うん。」 「どれ、どれぇ…」 「どうかな?」 「とってもいいわ!」 「そぉう。良かったぁ〜あ。」 お父さんは、一平に言った。 「後で、だじゃ丸くんも行くから、これで松原の掃除に行ってくれませんか。」 「あっ、はい。いいですよ。」 「そこにある、ゴミを入れる荷台を引いて行ってください。中にゴミを入れる袋が入ってます。」 「はい、分かりました。」 「松原の砂浜に打ち上げられたゴミを拾ってくればいいんです。」 「あ〜〜、よく漂着してるペットボトルみたいなやつですね。」 「そうです。木などはいいです。集めてる人がいますので。」 「はい。」 だじゃ丸が、大きな声を出した。 「完了〜!」 お父さんが、即座に答えた。 「もう出来たの。さすがだなあ。」 「おいらも一緒に行きます。」 スミレちゃんが、右手を上げて嬉しそうに叫んだ。 「わ〜〜〜い!れっつご〜〜!」
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