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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第53回   アシスト・スポーツカー
「駄洒落坊主さんのこと、だじゃ丸さんって言ってね?」
「そうよ。名前は、だじゃ丸なの。」
駐車場は、乗用車が二台入れるスペースがあった。右側にキャンピングカーのような自動車があった。
「これが、おから自動車よ。」
「これが、おからで走るやつか。」
駐車場の突き当たりの壁には、ドアがあった。右側の壁半分には、シャッターになっていて閉まっていた。
スミレちゃんは、小さな手で、やっととどくドアノブを掴んでドアを開けた。
「お父さん、いるかしら?」
部屋の中は、窓からの光で明るかった。黄色い小さなスポーツカーがあった。その後ろに、大きな機械があった。
「お父さ〜ん!」
スミレちゃんの甲高い声が、部屋に響いた。
「二階かしら?」
一階のインターホンのスピーカーから、声が流れた。
『スミレちゃんかい?』
「お父さ〜ん!」
『どうしたの?』
「冷蔵庫を拾ってきたの!」
『冷蔵庫…、今降りて行くよ。』
「は〜い。」
発明家の、風間(かざま)博士がトントントンと降りてきた。一平が挨拶をした。
「すみません。また戻ってきました!」
「この人に、これを運んでもらったの。」
博士は、笑顔で答えた。
「ああ、そうなの。それは大変だったね。」
「キャリーが付いてたので、どうってことはなかったです。」
博士は、ミニ冷蔵庫の前まで来ると、しゃがみこんだ。
「どれどれ…」
一平も、慌ててしゃがみこんだ。
「あっ、わたしがほどきます。」
「ショートするといけないから、テスト用の電源を使おう。」
博士は、壁の黄色のコンセントを指差した。
「ちょっと、あそこまで持ってきてくれない。」
「はい。」
スミレちゃんは、やたらと嬉しそうな顔になっていた。
「らんらんらん♪らんらんらん♪」
「ここでいいですか?」
「うん。」
博士は、ブレーカースイッチを押し下げた。冷蔵庫のプラグをコンセントに差し込んだ。
冷蔵庫は、無音だった。博士は、ドアを開けてみた。
「明かりは点いてるねえ…」
「お父さん、駄目なの?」
「ちょっと、待ってて。」
スミレちゃんは、少し笑いながら首を傾げて一平を見た。
「きっと直るよ、スミレちゃん!」
黄色いスポーツカーの中から、作業服を着た青い髪のイケメンが出てきた。
「わたしがやりましょう。」
初めて見る人だったので、一平は挨拶をした。
「はじめまして。」
青い髪のイケメンは笑った。
「わたしですよ。青鬼です。仕事中は人間に変身しているのです。」
「な〜んだ、青鬼さんか!」
青鬼は、冷蔵庫の側面に座り込むと、耳を当てた。
「コンプレッサーが、動いてませんねえ。」
博士が、ドアを開けて中を見ていた。
「あっ、これだ。温度調整がオフになってる。」
青鬼は、冷蔵庫の後ろを見ていた。
「あっ、動き出しました。」
「うん、動いてるなあ。」
スミレちゃんは喜んだ。
「わ〜、直ったの!」
「どうかなあ。使ってみないと分からないなあ。」
「青鬼さんは、機械に詳しいんですね〜。」
「青鬼君は、妖怪大学で機械工学を学んでいるからね。」
「妖怪大学の学生なんですか。」
「はい。」
スミレちゃんは、博士に頼んだ。
「お父さん。これ、わたしの部屋に置きたいんだけど、いいかしら?」
「そのつもりで持ってきたんだろう。」
「うん。」
「じゃあ、仕方ないよ。」
「らんらんらん♪らんらんらん♪」
青鬼(青い髪のイケメン)が、冷蔵庫を持ち上げた。
「僕が、運んであげましょう。」
スミレちゃんと青鬼は、一階の左側のドアに向かって歩き出した。
一平は、慌ててドアの方に駆け寄って行き、ドアを開けた。スミレちゃんは、お礼を言った。
「どうもありがとう。」
インターホンから、けんけん姉さんの声が流れた。
『お父さん、ダイエットコーヒーできたわよ。今持って行くね。』
「一階に持って来てくれ。カップを、ひとつ余計に持って来てくれ。」
『はい!』
「後は、彼がやるから、ここで休んでいていいですよ。」
「あっ、はい。」
一平は、木のテーブルの前の椅子に座った。隣には、黄色いスポーツカーがあった。
ドアが開いていて、運転席が見えていた。運転席の足元に、自転車のペダルのようなものがあった。
一平は立ち上がり、覗き込んだ。
「このペダル、何なんですか?」
「それはね、アクセル。アシスト自動車というか、人間にわざと負荷を掛けてるんですよ。」
「アクセル?アシスト自動車?」
「自動車に乗ってると、どうしても運動不足になるでしょう。強く漕ぐと、エンジンの回転数が上がるんです。」
「へ〜〜〜え。」
「筋力が落ちると、血の巡りが悪くなり、頭の働きが悪くなります。」
「そうですね。」
「それで、ルームサイクルを、そこに取り付けたんです。」
「凄い発想ですねえ…」
「これだと、クルマに乗って、運動できます。メタボにもなりませんよ。」
「まさに、スポーツカーですねえ。」
「いいこといいますねえ〜!」

 他の動物は 絶望という壁に阻まれ それ以上は進めなかった
 でも人は 創意工夫で数々の絶望を乗り越え生きてきた
 新たな希望は 絶望の彼方に見え 絶望の彼方にある

  人は 絶望という闇に苦しむ
    人は 絶望という自由に苦しむ
       人は 自由の刑に処せられている  


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