「駄洒落坊主さんのこと、だじゃ丸さんって言ってね?」 「そうよ。名前は、だじゃ丸なの。」 駐車場は、乗用車が二台入れるスペースがあった。右側にキャンピングカーのような自動車があった。 「これが、おから自動車よ。」 「これが、おからで走るやつか。」 駐車場の突き当たりの壁には、ドアがあった。右側の壁半分には、シャッターになっていて閉まっていた。 スミレちゃんは、小さな手で、やっととどくドアノブを掴んでドアを開けた。 「お父さん、いるかしら?」 部屋の中は、窓からの光で明るかった。黄色い小さなスポーツカーがあった。その後ろに、大きな機械があった。 「お父さ〜ん!」 スミレちゃんの甲高い声が、部屋に響いた。 「二階かしら?」 一階のインターホンのスピーカーから、声が流れた。 『スミレちゃんかい?』 「お父さ〜ん!」 『どうしたの?』 「冷蔵庫を拾ってきたの!」 『冷蔵庫…、今降りて行くよ。』 「は〜い。」 発明家の、風間(かざま)博士がトントントンと降りてきた。一平が挨拶をした。 「すみません。また戻ってきました!」 「この人に、これを運んでもらったの。」 博士は、笑顔で答えた。 「ああ、そうなの。それは大変だったね。」 「キャリーが付いてたので、どうってことはなかったです。」 博士は、ミニ冷蔵庫の前まで来ると、しゃがみこんだ。 「どれどれ…」 一平も、慌ててしゃがみこんだ。 「あっ、わたしがほどきます。」 「ショートするといけないから、テスト用の電源を使おう。」 博士は、壁の黄色のコンセントを指差した。 「ちょっと、あそこまで持ってきてくれない。」 「はい。」 スミレちゃんは、やたらと嬉しそうな顔になっていた。 「らんらんらん♪らんらんらん♪」 「ここでいいですか?」 「うん。」 博士は、ブレーカースイッチを押し下げた。冷蔵庫のプラグをコンセントに差し込んだ。 冷蔵庫は、無音だった。博士は、ドアを開けてみた。 「明かりは点いてるねえ…」 「お父さん、駄目なの?」 「ちょっと、待ってて。」 スミレちゃんは、少し笑いながら首を傾げて一平を見た。 「きっと直るよ、スミレちゃん!」 黄色いスポーツカーの中から、作業服を着た青い髪のイケメンが出てきた。 「わたしがやりましょう。」 初めて見る人だったので、一平は挨拶をした。 「はじめまして。」 青い髪のイケメンは笑った。 「わたしですよ。青鬼です。仕事中は人間に変身しているのです。」 「な〜んだ、青鬼さんか!」 青鬼は、冷蔵庫の側面に座り込むと、耳を当てた。 「コンプレッサーが、動いてませんねえ。」 博士が、ドアを開けて中を見ていた。 「あっ、これだ。温度調整がオフになってる。」 青鬼は、冷蔵庫の後ろを見ていた。 「あっ、動き出しました。」 「うん、動いてるなあ。」 スミレちゃんは喜んだ。 「わ〜、直ったの!」 「どうかなあ。使ってみないと分からないなあ。」 「青鬼さんは、機械に詳しいんですね〜。」 「青鬼君は、妖怪大学で機械工学を学んでいるからね。」 「妖怪大学の学生なんですか。」 「はい。」 スミレちゃんは、博士に頼んだ。 「お父さん。これ、わたしの部屋に置きたいんだけど、いいかしら?」 「そのつもりで持ってきたんだろう。」 「うん。」 「じゃあ、仕方ないよ。」 「らんらんらん♪らんらんらん♪」 青鬼(青い髪のイケメン)が、冷蔵庫を持ち上げた。 「僕が、運んであげましょう。」 スミレちゃんと青鬼は、一階の左側のドアに向かって歩き出した。 一平は、慌ててドアの方に駆け寄って行き、ドアを開けた。スミレちゃんは、お礼を言った。 「どうもありがとう。」 インターホンから、けんけん姉さんの声が流れた。 『お父さん、ダイエットコーヒーできたわよ。今持って行くね。』 「一階に持って来てくれ。カップを、ひとつ余計に持って来てくれ。」 『はい!』 「後は、彼がやるから、ここで休んでいていいですよ。」 「あっ、はい。」 一平は、木のテーブルの前の椅子に座った。隣には、黄色いスポーツカーがあった。 ドアが開いていて、運転席が見えていた。運転席の足元に、自転車のペダルのようなものがあった。 一平は立ち上がり、覗き込んだ。 「このペダル、何なんですか?」 「それはね、アクセル。アシスト自動車というか、人間にわざと負荷を掛けてるんですよ。」 「アクセル?アシスト自動車?」 「自動車に乗ってると、どうしても運動不足になるでしょう。強く漕ぐと、エンジンの回転数が上がるんです。」 「へ〜〜〜え。」 「筋力が落ちると、血の巡りが悪くなり、頭の働きが悪くなります。」 「そうですね。」 「それで、ルームサイクルを、そこに取り付けたんです。」 「凄い発想ですねえ…」 「これだと、クルマに乗って、運動できます。メタボにもなりませんよ。」 「まさに、スポーツカーですねえ。」 「いいこといいますねえ〜!」
他の動物は 絶望という壁に阻まれ それ以上は進めなかった でも人は 創意工夫で数々の絶望を乗り越え生きてきた 新たな希望は 絶望の彼方に見え 絶望の彼方にある
人は 絶望という闇に苦しむ 人は 絶望という自由に苦しむ 人は 自由の刑に処せられている
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