「妖怪が、いらいらしながらやってきたわ。」 妖怪は、黒松に頭をぶつけながら、なにやらぶつぶつ言いながらやってきた。 「ばかやろ〜ぅ!俺様の歩くところに、松なんか植えやがってぇ〜!」 妖怪は、黒松の下で、激しく足を踏み鳴らしていた。「馬鹿やろう!」 スミレちゃんと一平は、それを見ていた。 「妖怪イライラ小僧だわ!」 「あの妖怪、地団太(じだんだ)を踏んでる。」 妖怪イライラ小僧は、足を踏み外して、ドテンと転んだ。 「地団太を踏み外したわ!」 妖怪イライラ小僧は、「ちくしょう!馬鹿にしやがって!」と言って、立ち上がった。黒松を蹴っ飛ばした。黒松は、黙って堪えていた。 「大変、このままだと八当たりされるわ!」 妖怪イライラ小僧は、二人の近くの松の木の前で立ち止まった。それから、上を見上げた。血相を変えて、砂浜の方に逃げて行った。 松の木の上で、筋骨隆々のプロレスラーのような妖怪が、身構えて睨んでいた。 「あっ、ダイナマイトキッドだわ。」 「ダイナマイトキッド?」 「邪悪な魂の妖怪が通りかかったら、頭から真っ逆さまに落ちてくるの。」 「頭から!」 「頭で、相手の頭にぶつかって行くの。」 「なんちゅうやっちゃ!?」 「邪悪な魂の妖怪は、正面からの攻撃に弱いの。」 「そんなことしたら、自分の頭も、やられるんじゃないの?」 「そうよ。自分の頭も血だらけになるわ。」 「なんちゅうやっちゃ〜!」 「彼は、邪悪なものを死ぬほど憎んでいるの。だから必死なの。」 「まるで、神風特攻隊だなあ〜。」 松の木の下で、若い特攻隊の亡霊が、ダイナマイトキッドを見ていた。
ダイナマイトキッドは 直立不動の姿勢で 頭から倒れて落ちてくる 命をかけて 邪悪なる魂に向かって落ちてくる そして邪悪なる魂は砕け散る
「地球は、時計の秒針のように、とんとん拍子で動いてるわ。」 「それを、とんとん秒針と言います。」 コンクリートの車庫の上で、妖怪駄洒落坊主が座布団を敷いて、胡坐(あぐら)をかき座禅をしていた。 スミレちゃんは駄洒落坊主に挨拶した。 「だじゃ丸さん、おはよう!」 駄洒落坊主は、目を閉じたまま、「おはよう。」と答えた。 一平が、 「また、戻って来ました。」と言うと、 駄洒落坊主は、目を開けた。 「おお!」 「何をしてるんですか?」 「風に打たれて、無になって地頭力(じあたまりょく)を鍛えているんです。」 「じあたまりょく?」 「ゼロから一を作り出す能力のことです。」 「ふ〜〜ん。」 「そんな硬いところに座っていたら、石頭になってしまうわ。」 スミレちゃんは、駄洒落坊主に改めて声をかけた。 「日々の暮らしの音楽が聞こえますか?」 「日々の、クラシック音楽が聞こえてきます。」 スミレちゃんは、すたすたと車庫の中に入って行った。一平も入って行った。 「スミレちゃん。答えを想定して質問したんだね?」 「そうよ。」 「スミレちゃんは、頭がいいなあ。」 「そうかしら。」 「やっぱり、スミレちゃんは、普通の人間とは違うね。」 「普通の人間なんて、どこにもいないわ。」 スミレちゃんは、一平が引いている冷蔵庫を見た。 「重かった?」 「ぜ〜んぜん。」 「やがて、危機の時代がやって来るわ。足腰を鍛えておかないと、生きて行けなくなるわ。」 「ほんと?」 「ほんとよ。そこまで来てるわ。」
遠くの方で 風が荒れ狂っていた びゅ〜びゅ〜と鳴き叫び 荒れ狂っていた 草花や木々の妖精たちは 脅えながら風を睨んでいた
腐った魂が やがて大地を腐らすだろう 風は それを振り払うかのように 泣き叫びながら必死で吹いていた
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