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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第51回   ちょちょいのちょい
「蟻は、何のために戦っているのかしら。」
「それは、生きるためだよ。」
ホームレスのおじさんが一平に言葉を返した。
「スミレちゃんは、何のために生きてるのかと尋ねているんだよ。」
「そうなの?」
「きっと、一匹では生きられないんだわ。」
「そうだね。」
「さあ、行きましょう。こんなのを見てると、とんとん拍子に人生が終わってしまうわ。」
「スミレちゃんは、言うことがオーバーだなあ。」
「急がないと、生き物は、あっと言う間に死んでしまうわ。」
「そうだねえ。」
「おじさん。またね。」
「また、おいで。」
二人は、おじさんを過酷な戦場に残したまま歩き出した。猫が途中までついてきた。
スミレちゃんは、何気なく視線を冷蔵庫に移した。
「一生懸命に働いてきたのに、とっても可哀想だわ。」
「蟻のこと?」
「ううん。冷蔵庫のことよ。」

 < 目的を殺せ! 人は自由の刑に処せられている! >

「なんかやってきたぞ。」
スミレちゃんは後ろを振り向いた。
「妖怪大学の過激派だわ。」
「妖怪大学の過激派?」
「そうよ。暇妖怪の集まりだわ。」
「妖怪にも、大学があるんだ?」
「大学を出たら、エリート妖怪になれるの。」
「人間社会と同なじなんだね。」
「妖怪は、いつも人間の真似をしてるの。」
「目的を殺せ、人は自由の刑に処せられているって、どういうことなの?」
「さっぱり分からないわ、いつもへんてこりんなことばっかり言ってるのよ。」
「ふ〜〜ん。」
「暇だから、言葉で遊んでいるのよ。」
「なるほどね。」
五体の妖怪大学の過激派学生がやってきて、のほほんと過ぎ去って行った。
「ヘルメットかぶって、いい気になって、馬鹿みたいだわ。」
「何を勉強しているんだろう?」
「勉強の真似をしているのよ。真似で生きて、真似で死んで行くんだわ。」
「妖怪はみんな、人間の真似してるんだあ…」
「オリジナルでがないの。自分がないの。」
「そういうことか。」
「こっちよ。」

 < 妖怪温泉 ←↑ おから燃料自動車研究所 >

二人は、右に曲がった。
上空から、ヘリのローター音が聞こえてきた。
「あっ、西友の宣伝ヘリロボット、西友ターンだわ。水に溶けて花の肥料になるチラシを撒(ま)いているわ。」
「セイ・ユーターン。あっ、あっちからも同じようなものが飛んできた。」
「あっ、ダイエーの宣伝ヘリロボット、ダイエーエイ王だわ。水に溶けたら花の肥料になるチラシを撒(ま)いているわ。」
「大えいえいお〜。初めて見た。」
「お互い、負けじとやってるわ。」
「あのチラシ、水に溶けたら、花の肥料になるんだ。」
「お父さんの発明なのよ。」
「そうなの。凄い発明だなあ。」
「お父さんは、いつも、ちょちょいのちょいで発明するのよ。凄いんだから。」
「西友とダイエー、チラシの性能は同じなんだね。」
「【て】と【たら】が違うの。」
「ふ〜〜〜ん。【て】と【たら】が違うんだあ。」
「これから、公園に行って、安売りのチラシを撒くんだわ。」
「ここには撒かないの?」
「ここに撒いたら、人が少ないから、もったいないわ。」
「スミレちゃんは、チラシを見たくないの?」
「とっても見たいわ。」
「見て、どうするの?」
「見て、よ〜〜〜く考えて、買いに行くの。」
「ちょちょいのちょいとは、買わないんだ?」
「そんなことをしたら、駄目よ。りゅうじ君になってしまうわ。」
「りゅうじ君?」
「無駄遣いの、りゅうじ君。お友達なの。」
「りゅうじ君は、いい人なの?」
「とってもいい人よ。でも、ちょっと魂が禿げてるの。」
「魂が?」
「そうなの。養毛剤をつけても、魂は生えてこないわ。」
「どうしたら、魂が生えてくるの?」
「見知らぬ景色を、ゆっくりと画家のように眺めていたら生えてくるわ。」
「ほんと?」
「人間の魂は、大地から生まれるの。」
「ほんと?」
「ほんとよ。」


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