「蟻は、何のために戦っているのかしら。」 「それは、生きるためだよ。」 ホームレスのおじさんが一平に言葉を返した。 「スミレちゃんは、何のために生きてるのかと尋ねているんだよ。」 「そうなの?」 「きっと、一匹では生きられないんだわ。」 「そうだね。」 「さあ、行きましょう。こんなのを見てると、とんとん拍子に人生が終わってしまうわ。」 「スミレちゃんは、言うことがオーバーだなあ。」 「急がないと、生き物は、あっと言う間に死んでしまうわ。」 「そうだねえ。」 「おじさん。またね。」 「また、おいで。」 二人は、おじさんを過酷な戦場に残したまま歩き出した。猫が途中までついてきた。 スミレちゃんは、何気なく視線を冷蔵庫に移した。 「一生懸命に働いてきたのに、とっても可哀想だわ。」 「蟻のこと?」 「ううん。冷蔵庫のことよ。」
< 目的を殺せ! 人は自由の刑に処せられている! >
「なんかやってきたぞ。」 スミレちゃんは後ろを振り向いた。 「妖怪大学の過激派だわ。」 「妖怪大学の過激派?」 「そうよ。暇妖怪の集まりだわ。」 「妖怪にも、大学があるんだ?」 「大学を出たら、エリート妖怪になれるの。」 「人間社会と同なじなんだね。」 「妖怪は、いつも人間の真似をしてるの。」 「目的を殺せ、人は自由の刑に処せられているって、どういうことなの?」 「さっぱり分からないわ、いつもへんてこりんなことばっかり言ってるのよ。」 「ふ〜〜ん。」 「暇だから、言葉で遊んでいるのよ。」 「なるほどね。」 五体の妖怪大学の過激派学生がやってきて、のほほんと過ぎ去って行った。 「ヘルメットかぶって、いい気になって、馬鹿みたいだわ。」 「何を勉強しているんだろう?」 「勉強の真似をしているのよ。真似で生きて、真似で死んで行くんだわ。」 「妖怪はみんな、人間の真似してるんだあ…」 「オリジナルでがないの。自分がないの。」 「そういうことか。」 「こっちよ。」
< 妖怪温泉 ←↑ おから燃料自動車研究所 >
二人は、右に曲がった。 上空から、ヘリのローター音が聞こえてきた。 「あっ、西友の宣伝ヘリロボット、西友ターンだわ。水に溶けて花の肥料になるチラシを撒(ま)いているわ。」 「セイ・ユーターン。あっ、あっちからも同じようなものが飛んできた。」 「あっ、ダイエーの宣伝ヘリロボット、ダイエーエイ王だわ。水に溶けたら花の肥料になるチラシを撒(ま)いているわ。」 「大えいえいお〜。初めて見た。」 「お互い、負けじとやってるわ。」 「あのチラシ、水に溶けたら、花の肥料になるんだ。」 「お父さんの発明なのよ。」 「そうなの。凄い発明だなあ。」 「お父さんは、いつも、ちょちょいのちょいで発明するのよ。凄いんだから。」 「西友とダイエー、チラシの性能は同じなんだね。」 「【て】と【たら】が違うの。」 「ふ〜〜〜ん。【て】と【たら】が違うんだあ。」 「これから、公園に行って、安売りのチラシを撒くんだわ。」 「ここには撒かないの?」 「ここに撒いたら、人が少ないから、もったいないわ。」 「スミレちゃんは、チラシを見たくないの?」 「とっても見たいわ。」 「見て、どうするの?」 「見て、よ〜〜〜く考えて、買いに行くの。」 「ちょちょいのちょいとは、買わないんだ?」 「そんなことをしたら、駄目よ。りゅうじ君になってしまうわ。」 「りゅうじ君?」 「無駄遣いの、りゅうじ君。お友達なの。」 「りゅうじ君は、いい人なの?」 「とってもいい人よ。でも、ちょっと魂が禿げてるの。」 「魂が?」 「そうなの。養毛剤をつけても、魂は生えてこないわ。」 「どうしたら、魂が生えてくるの?」 「見知らぬ景色を、ゆっくりと画家のように眺めていたら生えてくるわ。」 「ほんと?」 「人間の魂は、大地から生まれるの。」 「ほんと?」 「ほんとよ。」
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