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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第48回   スミレちゃん
松原の中央付近のテントでは、ホームレスのおじさんが、枯れ木を燃やしていた。
「あっ、詩人のおじさんだ!」
少女は、おじさんに手を振った。
「おじさ〜ん!」
おじさんは少女に気がついて、同じように手を振った。
少女は、駆け寄って行った。一平も、仕方なく駆け寄って行った。
「今日は、いい詩ができましたか?」
「待っても待っても、なかなか来ないよ。」
「風にのって、そのうちに、やって来ますよ。」
「スミレちゃんは、詩人だねえ〜。」
一平も挨拶をした。
「昨日はどうも。」
「おう、あんたか。温泉には入れたかい?」
「ええ、入れました。」
「それはよかった。」
にゃ〜〜っと鳴いて、テントの中から、猫が出てきた。
猫は立ち上がって、ピクニックバスケットの中を覗こうとした。
少女は、「こらっ!」と怒って、追い払った。
おじさんは、竹の棒で燃える松の枝を取り除いていた。
金網の笊(ざる)が出てきた。
「もういいでしょう。」
竹の棒で、笊を器用にひっくり返した。中から焼き芋が出てきた。
少女は、びっくりした。
「わ〜、焼き芋だわ〜!」
「この金網、いいだろう?」
「とってもいい考えだわ。わたしもやってみようかしら。」
「ここに来るといいよ。やってあげるから。」
「うん。」
「ひとつあげるよ。どれがいいかな。」
「ちょっと待って。」
少女は、ピクニックバスケットから紙を取り出した。チラシの紙だった。それから、指をさした。
「それちょうだい。」
「これね。はい。熱いよ!」
少女は受け取ると、紙に包んだ。そして、「まだ熱いわ。」と言って、籐のバスケットの上に乗せた。
「焼き芋は、バターをつけて食べると美味しいのよ。」
「そうだねえ。」
「お兄さんにも、ひとつちょうだい。」
「ああ、いいよ。兄さん、どれがいい?」
「じゃあ、これください。」
一平は、いちばん小さいのを選んだ。
「これでいいの?」
「はい。」
少女は、近くで生えている葉っぱをちぎった。
「この葉っぱ、おいしいのよ。巻いて食べようっと。」
おじさんも知っていた。
「ツルナだね。花言葉は、おいしく食べてって言うんだよ。」
「ふ〜〜ん。」
「昨日は綺麗な月が出てたね。」
「そうね。月が雲を青く染めていたわ。」
「スミレちゃんは、詩人だね〜。」
「そうかしら。」
一平は、焼き芋を食べながら少女の顔を見た。
「スミレちゃんって、言うんだ?」
「そうなの。名前が無いって言ったら、けんけん姉さんがつけてくれたの。」
「いい名前だね。」
「野に咲く一輪の花みたいだからって、つけてくれたの。」
「そうだね…、それまでは、何て言ってたの?」
「マッチ子。」
「なんだ、そのままじゃん。」
「そうなの。」
「誰が、つけたの。」
「森のホームレスのおじさん。食〜べよっと。」
少女は、おいしそうに焼き芋を食べ始めた。
半分ほど食べると、残りをバスケットの中に入れた。
「おじさん。また来るね。」
「ああ、またおいで。」
「さあ、行きましょう。いろんなことを知ってるフクロウおばさんが待ってるわ。」
一平は、おじさんに百円硬貨を二枚渡した。
「おじさん、どうも。」
おじさんは、ニコっと笑い、頭を少し下げた。
「悪いねえ。貧乏だから、もらっとくよ。」
少女と一平は、仲良く手を繋いで歩き出した。

 らんらんらん♪ らんらんらん♪
   野菜は海水で洗いましょう〜♪ 野菜は海水で洗いましょう〜♪

「うん?」
「これは二番。これも、けんけん姉さんが教えてくれたの。昔の人は、野菜を綺麗な海水で洗って食べていたんですって。」
「ふ〜〜ん。」
「海水で洗うと、美味しくなるって言ってたわ。」
「そうか、そうかも知れないなあ〜。」

浜辺を、カモメが舞っていた。


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