松原の中央付近のテントでは、ホームレスのおじさんが、枯れ木を燃やしていた。 「あっ、詩人のおじさんだ!」 少女は、おじさんに手を振った。 「おじさ〜ん!」 おじさんは少女に気がついて、同じように手を振った。 少女は、駆け寄って行った。一平も、仕方なく駆け寄って行った。 「今日は、いい詩ができましたか?」 「待っても待っても、なかなか来ないよ。」 「風にのって、そのうちに、やって来ますよ。」 「スミレちゃんは、詩人だねえ〜。」 一平も挨拶をした。 「昨日はどうも。」 「おう、あんたか。温泉には入れたかい?」 「ええ、入れました。」 「それはよかった。」 にゃ〜〜っと鳴いて、テントの中から、猫が出てきた。 猫は立ち上がって、ピクニックバスケットの中を覗こうとした。 少女は、「こらっ!」と怒って、追い払った。 おじさんは、竹の棒で燃える松の枝を取り除いていた。 金網の笊(ざる)が出てきた。 「もういいでしょう。」 竹の棒で、笊を器用にひっくり返した。中から焼き芋が出てきた。 少女は、びっくりした。 「わ〜、焼き芋だわ〜!」 「この金網、いいだろう?」 「とってもいい考えだわ。わたしもやってみようかしら。」 「ここに来るといいよ。やってあげるから。」 「うん。」 「ひとつあげるよ。どれがいいかな。」 「ちょっと待って。」 少女は、ピクニックバスケットから紙を取り出した。チラシの紙だった。それから、指をさした。 「それちょうだい。」 「これね。はい。熱いよ!」 少女は受け取ると、紙に包んだ。そして、「まだ熱いわ。」と言って、籐のバスケットの上に乗せた。 「焼き芋は、バターをつけて食べると美味しいのよ。」 「そうだねえ。」 「お兄さんにも、ひとつちょうだい。」 「ああ、いいよ。兄さん、どれがいい?」 「じゃあ、これください。」 一平は、いちばん小さいのを選んだ。 「これでいいの?」 「はい。」 少女は、近くで生えている葉っぱをちぎった。 「この葉っぱ、おいしいのよ。巻いて食べようっと。」 おじさんも知っていた。 「ツルナだね。花言葉は、おいしく食べてって言うんだよ。」 「ふ〜〜ん。」 「昨日は綺麗な月が出てたね。」 「そうね。月が雲を青く染めていたわ。」 「スミレちゃんは、詩人だね〜。」 「そうかしら。」 一平は、焼き芋を食べながら少女の顔を見た。 「スミレちゃんって、言うんだ?」 「そうなの。名前が無いって言ったら、けんけん姉さんがつけてくれたの。」 「いい名前だね。」 「野に咲く一輪の花みたいだからって、つけてくれたの。」 「そうだね…、それまでは、何て言ってたの?」 「マッチ子。」 「なんだ、そのままじゃん。」 「そうなの。」 「誰が、つけたの。」 「森のホームレスのおじさん。食〜べよっと。」 少女は、おいしそうに焼き芋を食べ始めた。 半分ほど食べると、残りをバスケットの中に入れた。 「おじさん。また来るね。」 「ああ、またおいで。」 「さあ、行きましょう。いろんなことを知ってるフクロウおばさんが待ってるわ。」 一平は、おじさんに百円硬貨を二枚渡した。 「おじさん、どうも。」 おじさんは、ニコっと笑い、頭を少し下げた。 「悪いねえ。貧乏だから、もらっとくよ。」 少女と一平は、仲良く手を繋いで歩き出した。
らんらんらん♪ らんらんらん♪ 野菜は海水で洗いましょう〜♪ 野菜は海水で洗いましょう〜♪
「うん?」 「これは二番。これも、けんけん姉さんが教えてくれたの。昔の人は、野菜を綺麗な海水で洗って食べていたんですって。」 「ふ〜〜ん。」 「海水で洗うと、美味しくなるって言ってたわ。」 「そうか、そうかも知れないなあ〜。」
浜辺を、カモメが舞っていた。
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