その少女は、松の木のそばの大きな丸い石の上に、ちょこんと妖精のように腰掛けていた。 一平は、思わず声をかけた。 「お譲ちゃん、ひとりなの。こんなところで何してんだい?」 「魂は救われました?」 「えっ!?」 「魂は救われましたか?」 「変なことを聞くね。…救われましたよ。」 「まだですね。」 「えっ?」 「完全には救われていません。」 「えっ?」 「あなたの魂は、逆立ちしています。」 「逆立ち?」 「はい。完全に逆立ちしています。」 「ひょっとして、君は妖精かな?」 「そうです。」 人間のようだった。 「人間っぽいけど?」 「人間に変身してるのです。」 「なるほど。」 「わたしは、マッチ売りの妖精。」 「じゃあ、マッチ売りの少女だ。」 「そうです。だから、こういう格好をしてるのです。」 少女は、ピクニックバスケットから、マッチを取り出した。 「占ってあげましょう。あなたの心を。」 「心を占うの?」 「ええ。」 少女は、無造作に小さなマッチ箱からマッチ棒を一本、可愛い指で摘んで取り出し、一平に手渡した。 「擦(す)ってください。」 一平は、黙ってマッチ棒を擦った。火がついた。 「見えました!」 「えっ?」 「やっぱり、あなたの魂は逆立ちしています。」 「逆立ちしている?」 「そうです。」 「よく分からない、意味が。もっと詳しく教えてくれないかなあ。」 「人の言葉では、教えられません。森に行きましょう。」 「森に?」 「公園です。」 「ああ、森の公園ね。」 「みんな、ついておいで!」 小さなドラムの音と、笛の音が、松林の砂の混じった乾いた土の上に聞こえてきた。 「なんだろう?」 「わたしの、七人のお伽囃子鼓笛隊(おとぎばやしこてきたい)です。」 「おとぎばやしこてきたい?」 マッチ棒ほどの、お伽囃子鼓笛隊が草むらから現れ、賑やかに行進して来た。 「さあ、行きましょう!」 天邪鬼(あまのじゃく)がやってきた。 「何をしてるんだ?」 少女は、ニコっと笑って答えた。 「おやおや、天邪鬼さんではありませんか。一緒に森に行きましょうよ。」 天邪鬼は、不機嫌な顔になり、「いやなこった!」と言って、去って行った。 「さあ、行きましょう。」 少女は、七人のお伽囃子鼓笛隊を一人づつ丁寧に、バスケットに入れた。 それから、バスケットの肩掛け紐(ひも)を、首と左腕に通して、落ちないように右肩に斜めに掛けた。 「はい。これで、大丈夫。」 そして、一平の手を取ると、楽しそうに歌いだした。
らんらんらん♪ らんらんらん♪
「お母さんは、いないの?」 「妖精には、お母さんはいないの。大地が、お母さんなの。」 「友達は、いないの?」 「友達は、森に行ったら沢山いるわ。さあ、行きましょう。」 少女に手を引かれ、仕方なく一平も歩き出した。
らんらんらん♪ らんらんらん♪ らんらんらん♪
一平の隣にいるのは、一メートルほどの、可愛い少女だった。
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