文字通り、朝食は、あっと言う間に終わった。 それは、いつもの、目玉焼きとトーストとバナナと野菜スープの朝食だった。 駄洒落坊主が、コーヒーを飲み終えるのを確かめると、姉さんが、妖怪たちに命令を発した。 「皆さん、各自仕事に励んでください。」 妖怪たちは、とっても素直に、それぞればらばらに返事をした。
< は〜い >
「どうもありがとうございました。」 若者は、深く頭を下げ、みんなに感謝を示した。 「また来てくださいね。」 「絶対に、また来ます。」 「あっ、そうだ。八月十五日に夜8時から、百鬼夜行祭があるんですよ。」 「ひゃっきやぎょうさい?」 「このあたりの妖怪たちが集まって、邪気払いの脅し祭りをやるんです。」 「おどしまつり?」 初めて聞く名前だった。 「面白そうですね。」 「ぜひ、いらしてください。」 赤鬼と青鬼が足を踏ん張り、右手を上げ見得を切った。
< おいらたちも やるんでさあ〜! >
「そうなんですか。見てみたいなあ。」 赤鬼と青鬼は、両手を上げ片足で、とんとんと飛び跳ねてみせた。 「駄洒落坊主さんは、やらないの?』 「おいらは、食べて見物。」 みんなは大いに笑った。 風は、まだ少し吹いていたが、そんなに寒くはなかった。 きょん姉さんは、松原を見ていた。 「風が、南から吹いているわ。」 お父さんは、海を見ていた。 「そうだね。」 それから若者を見た。 「また、遊びに来てください。」 「はい!」 若者は手を振って別れを告げ、百鬼夜行海岸を、ゆっくりと歩き出した。 赤鬼と青鬼が叫んでいた。
< 二度と転ぶなよ〜! >
ゆっくりと歩く理由は、みんながいつまでも手を振っていたから。心が少し悲しかったから。 若者は、心の中で叫んだ。
「ありがとう、みんな!もう絶対に転ばないよ。きっときっと、またここに来るよ!」
ゆっくり歩こう 明日の道を 転んでしまったら おしまいだ 転んでしまったら お陀仏だ
赤鬼と青鬼が、門出の舞いを、大地に力強く足を踏み込みながら踊っていた。心地よい風が吹いていた。 若者の前を、草笛を吹きながら、風の中のあいつが歩いていた。
「お父さん、春になったら、蓮華(れんげ)の花が咲き、菜の花が咲くわ。」 「そうだね。」 「そしたら、みんなで田舎の丘に、おから自動車でピクニックに行きましょう。」 「そうだね。妖怪や妖精たちも、やってくるからね。」 駄洒落坊主が、それを聞いて喜び、踊りだした。 「そうだ、そうだ、そうしよう!」 赤鬼と青鬼も踊りだした。
< そうだ そうだ そうしよう! >
街には魂を失った人々が溢れ うごめいている 街には魂を失った人々の 虚ろな心がけが賑わっている ここにはもう 妖怪たちや妖精たちの住む場所は どこにもない
魂のない人々は 酒を飲み 嘘の魂に救いを求める 魂のない人々は 薬を飲み 嘘の魂に救いを求める
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