枯葉舞う寒風のなかを、背広を着た妖怪が、 「遅刻する、遅刻する!」 と言って、走っていた。 「あれは?」 姉さんが説明した。 「あれは、サラリーマン妖怪です。いつも、この時間になると走っているのです。」 「どこに行くんですか?」 「さ〜〜ぁ?」 お父さんが説明した。 「妖怪たちは、人間の真似をしているだけなんだよ。」 そのあとを、震えながら、よろよろと今にも転びそうな足取りで、 「生きてるのが、怖いよ〜。生きてるのが、怖いよ〜。」と、か細い声で泣きながら、とっても小柄な青い顔の妖怪が歩いていた。 「あれは?」 「あれは、妖怪未熟丸です。」 赤鬼が白目を剥いた。 「おお〜、未熟者〜。どこへ行く〜!」
二一世紀なのに 人々は二〇世紀の心で 二一世紀の嵐のなかを無言で歩いている
「あ〜あ、朝から嫌な天気だなあ。」 駄洒落坊主は、姉さんの顔を覗き込んだ。 「天気に怒ってたら、八当たり婆さんになっちゃいますよ。」 「ほっといてよ!」 「そんなこと言ってたら、仏様になっちゃいますよ。」 「なんでよ?」 「ほっとけ〜様。」 みんなは、遠慮笑いをしていた。 「あんたって、いつも頭が暇ねえ〜。頭を切り替えないと生きていけなくなるよ。」 「蟻のように、ひたすら生きればいいじゃない。」 「なに言ってるの、あんた?ときどき訳の分かんないこと言うね。」 「蟻って、大きなイビキをかくんですよ。姉さん。」 「朝から、変なこと言わないでよ。」 「いつも、人間は人間のなかで考えてる。」 「ん?」
実は 蟻は大きなイビキをかくのです でも それは人間には聞こえません 聞いた人など 世界中を探しても どこにもいません それほどに 人間は無知なのです
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