「こら〜〜〜!」 突然と、大声が発せられた。金色のボールが飛んできて、少女の背に当った。少女は「ぎゃ〜〜〜にゃあ!」と唸って逃げていった。 若者は頭を、コンコンコンコンと小突かれた。 「もう駄目だ、すずかちゃ〜〜ん!」 「もしもし、もしもし。だいじょうぶですか、お兄さん。なんだったら肩でも揉みましょうか?」シナモンの香りに若者は我に帰った。 目の前には、さっきのピンク色の自転車に乗った不思議な女性の顔があった。 「猫の化け物は?」 「もういません。逃げて行きました。」 「ああ、よかった。死ぬかと思った。」 「すずかちゃ〜〜んって言ってましたよ。」 「すずかちゃん…」 「あれが、風の死の妖精なんです。」 不思議な女性は、金色のボールを脇にかかえていた。 「魔物は金色を嫌うんです。」 「そうなんですか。」 「魔物は普通の人には見えません。死にたがる人にしか見えません。」 「おかしいなあ。もう死にたくないのに。」 「まだ、死神がついています。まだ、あなたの隣で棺桶を叩きながら喜んでいます。」 「どうしたらいいんでしょう?」 「一ヶ月、死ぬことを考えなければ、死神はいなくなるでしょう。」 「一ヶ月…」 「根競べですね。でも、死神はかなりしつこいですよ。」 「やってみます!」 「今のような魔物がやってきたら、金色のものを見せると逃げて行きます。キラキラと光るものが嫌いだから。」 「死神は逃げて行かないんですか?」 「死神は、神ですので、そんなものでは逃げては行きません。残念ながら魔物だけです。」 「分かりました。」 「金色ですよ。」 「銀色は駄目なんですか?』 「本物なら、銀や宝石でも大丈夫です。いちばんいいのは、本物の金です。」 「金がいちばんいいんですね。」 「死にたくなったら、金や宝石を見つめてください。金や宝石の妖精が貴方を守ってくれます。」 「妖精が?」 「はい!」 「金の指輪なんかが、いいんですね。」 「はい。」 「今から買いに行きます。」 「お金持ちなんですねえ。」 「とんでもない。貧乏持ちですよ。」 「貧乏持ち?」 「はい。」 「お金が無かったら、金メッキの物でもいいんですよ。」 「わかりました。」 「あっ、あなたは金歯がありますねえ。魔物に食われそうになったら、それを見せるといいですねえ。」 「こんなもので大丈夫なんですか?」 「微妙ですねえ。やっぱり、その程度じゃ駄目かな?じゃあね。気をつけて。」 「駄目なんですか、これじゃあ?」 「やってみたら分かりますよ。」 「そんな〜〜〜!」 その不思議な少女のような女性は、ピンク色の自転車に、「けんけん!」と言いながら、片足けんけん女乗りで、シナモンの香りを残して去って行った。 着物を着た3人の娘がやってきた。 「あ、けんけん乗りの、けんけん姉さんだ!」 けんけん姉さんは、「にゅ〜あけおめ〜〜〜!」と言いながら手を振っていなくなった。 「あっ、さっきの人だ!」声を掛けたのは、サッチーという娘だった。 小さな蟻を目で追いながら、若者は涙を流していた。涙が蟻にあたり溺れそうになった。 「こんな小さな命でも、懸命に生きているのに、なんて俺って情けないんだろう…」 気がつくと、若者の前に着物姿の3人の娘が立っていた。 サッチーが、「大丈夫ですか?」と言って、少し屈んで若者の肩に手をそえた。それは、温かい人間の手だった。若者はほっとした。 若者は、彼女の行為が嬉しかった。 「ありがとう。大丈夫です。」と言って、立ち上がった。 サッチーの右隣の長い髪の娘が心配そうに尋ねた。 「ちゃんと食べていますか。ピロリ菌には、乳酸菌LG21が利きますよ。」 「大丈夫です。ちゃんと食べています。LG21も飲んでいます。」 サッチーの右隣の短い髪の娘が心配そうに尋ねた。 「ちゃんと寝ていますか。枕カバーは、ちゃんと洗っていますか。」 「大丈夫です。ちゃんと寝ています。枕カバーは、ちゃんと洗っています。」
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