誰かが、しくしくと泣いていた。 貧乏神だった。 『ごめんなさい!ごめんなさい!』 おじいちゃんが去って行った方向に向かって、正座して床に手をつき頭を深く下げて泣いていた。 姉さんは、びっくりして尋ねた。 「どうしたの貧乏神さま?」 みんなも、びっくりしていた。 『あの老人を、間違って貧乏にしてしまったんじゃ!』 「えっ?」 『お〜〜〜、なんということをしてしまったんだろう。』 そう言うと、貧乏神は消えていなくなってしまった。 お父さんが、納得したような顔になっていた。 「だからさっきいなくなったんだね。」 姉さんが頷(うなず)いた。「ああ、そうだったんだ。」 風間小太郎が、 「ちょっと用がありますので失礼します。また後で来ます。」と言って、いなくなった。 若い特攻隊の亡霊も、いなくなっていた。 掛け時計が、八時をさしていた。 「小太郎おじさん、どこに行ったんだろう?」 妖怪たちは、疲れたのか、ソファーや床の上で寝ていた。 「まだ八時なのに、みんな寝ちゃってる。」 お父さんが、 「今日は、いろんなことがあったからね。妖怪たちは人間と違って繊細だから。」 「そうなのよね。姿かたちに似合わず。」 若者が、「そうなんですかあ。」と感心したように言った。 「あ〜〜、疲れた。わたしも目薬を差して帰ります。」 若者は、ソファーに深く座り、目薬を差そうとした。 「目薬は駄目です!」 けんけん姉さんが止めた。 「えっ、どうしてですか?」 「目薬を差すと、妖怪や亡霊が見えなくなります。」 「そんなんですか。」 「化学物質で、気を感じなくなりんです。」 「分かりました!」 「目は乾くと疲れます。ですから、先ず目を開き、水で潤(うるお)すことです。」 「はい。」 「それから、温かいタオルで目を暖め血行を良くします。」 「はい。」 「わたしが、温かいタオルを持ってきますので、洗面所に行って、水で目を潤(うるお)してきてください。」 「はい。」 言われた通りに、若者は洗面所に行った。目を水で濡らし、ついでに顔を洗って戻ってきた。 姉さんが、大きなグラスに入ったタオルを持ってきた。 「はい。」少し湯気(ゆげ)が立っていた。 「ああ、このグラスいいですねえ。」 若者は、ソファーに座り、温かいタオルを目に当てた。 「あ〜〜、気持ちいい!」 お父さんが、 「どこから来たんですか?」と尋ねた。 「東京からなんですが、この町の友人の家に昨夜から泊まっています。3日までいるつもりです。」 「じゃあ、今日は泊まって行きなさい。」 「いやあ、これ以上迷惑をかけては。」 「いいんですよ。娘も妖怪たちも、あなたを気に入ってるようだし。」 「ほんとうに、いいんですか?」 姉さんが、 「いいんです!」と、大声で言った。妖怪たちが、びっくりして、目を開けた。
生きるって どうしてこんなに 悲しいんだろう 生きるって どうしてこんなに 切ないんだろう ここにあるのは 飲んでも飲んでも酔わない 今というカクテル
|
|