テレビでは、なにやら科学者が、人類の危機について語っていた。
このままのスピードで二酸化炭素が増えて、 伐採と異常気象で植物が減れば、 五十年後には、人類は食料不足と呼吸困難で、絶滅するでしょう。
貧乏神は若者に、皮肉っぽく尋ねた。 『あと五十年だってさ。それでも生きますか?』 「はい。」 『では、やりましょう。』 貧乏神は、味噌おにぎりを二個食べ終わると、姉さんに話しかけた。 『わしが、彼の心の中に入ったら、死神が出てくる。そしたら直ぐに術をかけなさい。直ぐにかけないと、わしが出られなくなるから、よろしく頼むぞ。』 「ちょっと待ってください!」 『なんだね?』 「わたしは出来ないんです!」 『出来ない!?』 「風魔の秘術は使えないんです。お父さんも使えません。」 『なぁんだ!』 「おじさんが、もう少ししたらやって来ます。おじさんなら出来ます。」 『そのおじさんとは何者なんだ?』 「ご先祖様の風魔小太郎のおじさんです。」 『なにっ、風魔小太郎。まことかそれは!』 「はい。」 『あの、風魔忍者の風魔小太郎がやってくるのか?』 「はい。」
風魔小太郎は 風に乗ってやってくる 風と一緒にやってくる 虚しい心に 風の孤独な囁(ささや)きが聞こえたら やってくる 人々の 虚しく乾いた心を 容赦なく殺すためにやってくる
貧乏神は再び、残った味噌おにぎりを食べ始めた。 『しょうがない。待つか。』 窓の外の景色は、すっかり夕陽に染まっていた。 近くの道路を、亡霊のおじいさんが、夕陽を背に受け、しとしとの雨の中を、ひとりとぼとぼと歩いていた。 姉さんが、お父さんに言った。 「お父さん。散歩おじいちゃんだわ。」 「きっと、正月の挨拶に来たんだろう。連れて来てあげなさい。」 「はい。」 姉さんは、正面のドアを開け、傘を差して駆け出した。 「おじいちゃ〜ん!」 おじいさんは、足を止めると振り向いた。 追いついた姉さんは、ペコリと頭を下げた。 「おじいちゃん。あけましておめでとう!」 おじいさんは、にこっと笑って挨拶をした。 「あけましておめでとう。」 「おいでよ、おじいちゃん。どうせ一人なんだろう。おいしいものあるよ。」 「いいのかい。」 「いいよ。お父さんが待ってるよ。」 二人は、一緒にやってきた。おじいさんは、お父さんに頭を下げ、丁寧に挨拶をした。 「あけましておめでとうございます。」 お父さんも挨拶をした。「あけましておめでとう。」 おじいさんは、みんなにも頭を下げ、挨拶をした。 「あけましておめでとうございます。」 みんなも、おじいさんに同じ言葉で挨拶をした。 若者が、「あっ、さっきの望郷おじいさんだ。」と言った。 おじいさんは、「先ほどは、どうも。」と、答えた。 姉さんが若者に、 「おじいちゃんは、機械が好きで、お父さんが作ってるオカラ自動車を見に来るの。」 「そうなんですか。」 窓の外で、俗っぽいカラスたちが、カァ〜カァ〜となきながら、逃げるように飛び去って行った。 突然、風が挨拶をするように吹いてきた。 小さな風の妖精たちが、七色の羽根をキラキラと奏(かな)でながら、窓の外で踊りだした。 「あっ、小太郎おじさんがやってきたわ!」
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