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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第35回   味噌おにぎり
「私たち、風魔一族なんです!」
『なんと!?』
「風魔小太郎の直系の子孫なんです。」
『ほんとうか!?』
「ですから、わたしも父も、妖怪や亡霊と話すことができます。」
『そうか、風魔一族だったのか。』
「生まれたときから、万物と話せる風魔の術が具(そな)わっていました。」
『風魔の術…、ずいぶん昔のことなので、すっかり忘れていたが。思い出したぞ。』
「風魔の神々の書には、秘術には貧乏神さまの力が必要。と書いてありました。」
『その通り、風魔の秘術には、わしらの力が必要だ。』
「お願いします。その力をかしてください。」
若者が立ち上がって、深く頭を下げた。
「お願いします。百万円くらいだったら出せます!」
『そんなものは要らないよ。』
「何でもいいです。お礼は必ずします。』
若者の目は潤んでいた。
『…味噌おにぎりだったら、引き受けてもいいぞ。』
姉さんが、にこっと笑った。
「えっ、そんなものでいいんですか!?」
『ああ、いいよ。』
「だったら、直ぐに作ります。お待ちください!」
姉さんは、台所に駆けて行った。
なぜか、貧乏神は若者に説教をはじめた。
『人間は、貧しく強くなければいかん。』
「貧しく…ですか?」
『貧しさが強さ養うのだ。貧しさが心を養うのだ。』
「はい。」
『裕福になると、人間は堕落して、見も心も弱くなり病気になる。』
「はい!」
『裕福になると、人間は頭も身体も使わなくなって馬鹿になる。』
「はい!」
『大地に迷惑を掛けずに、慎(つつ)ましく謙虚に生きることが大切だ。』
「はい!」
「人間だけが生きているのではないぞ。」
「はい!」
「楽をすると、身も心も腐り、必ず罰(ばち)が当る。」
「はい!」
姉さんが、味噌おにぎりを大皿にのせ持ってきた。丁寧に貧乏神の前に置いた。
「どうぞ、お召し上がりください。」
「おお〜、来たか来たか、味噌おにぎり。待ってたぞ〜!」

 貧乏神を知らない不幸な子供たち いったいどくに行くんだろう
  魂のない食べ物で空腹を満たし 病気で歩けなくなった子供たち いったいどくに行くんだろう

 人々は汚れた空気の中を ひたすら歩いている 死に向かって
  貧乏神に捕まったら大変だ 貧乏神に捕まったら大変だ 貧乏神に捕まったら大変だ 

  大切なことを教えてくれる大地は もうここにはない




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