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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第34回   風魔の秘術
貧乏神の挨拶に、死神は答えなかった。相変わらず若者の背後で、固まっていた。
『あっ、食事中だったのか。これは失礼したな。』
姉さんが丁寧に答えた。
「あっ、いいんですよ、いいんですよ。もう食べ終わったんです。」
『まだ、余っているじゃないか。』
「…あっ、そうですね。」
『食べ物を残しちゃあいかんなあ。こんなことやってると貧乏になるよ。餓死してる人もいるんだよ。』
「あっ、そうですね。」姉さんは思わず恐縮した。
『どれどれ、わしが食べてやろう。』
「あっ、食べてください。こんなものでよろしかったら。」
姉さんは急いで、新しい皿と割り箸を取りに行った。直ぐに戻ってきた。
「どうぞ。」
『じゃあ、頂こうかな。』
貧乏神は、『いただきます。』と言ってから食べ始めた。
『う〜ん、久しぶりだ。』
みんなは、見守るばかりだった。
『実体を見せたのは、五ヶ月振りくらいだな。ということは、五ヶ月振りの食事か。』
若者は、びっくりした。
「五ヶ月振りと言うと、五ヶ月前まで何も食べてなかったんですか?」
「そういうことになるかな。」
「お腹、空かなかったんですか。」
『透明で見えてないときには、まったく空かないんだよ。』
若者は、びっくりした。他の者は、ちっともびっくりはしなかった。
貧乏神は、食べながら若者を見た。
『少しも、死にたそうな顔をしてないけど?』
若者は、率直に答えた。
「わたし、死にたくはないんです!」
姉さんが、若者をかばうように弁護した。
「間違って入り込んじゃったらしいんです。」
『間違って?』
若者が答えた。
「自殺の真似をして、わたしを殺してくださいと、人に頼んだんです。」
『そういうことをしちゃあいけないなあ。』
姉さんが、貧乏神に尋ねた。
「死神に、そのことを説明していただけませんでしょうか。」
『それは駄目だな。死神には死の言葉しか聞こえない。』
「他に、何かいい方法はないんでしょうか。」
姉さんは、なぜか必死だった。
『死神は、死ぬことを考えなければ自然に出て行く。でも、1年はかかるな。』
「彼を直ぐに助けたいんです。」
『わしが彼の心に入れば、死神は直ぐに出て行く。しかし、わしが彼の心から出られなくなる。』
「風魔の秘術を使っても駄目ですか。」
貧乏神の顔色が変わった。
『風魔の秘術!?』
「はい!」
「先ほどより、只者(ただもの)ではないと見ていたが、そなたたち、いったい何者だ?なぜ、そのようなものを知っている!?」



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