貧乏神の挨拶に、死神は答えなかった。相変わらず若者の背後で、固まっていた。 『あっ、食事中だったのか。これは失礼したな。』 姉さんが丁寧に答えた。 「あっ、いいんですよ、いいんですよ。もう食べ終わったんです。」 『まだ、余っているじゃないか。』 「…あっ、そうですね。」 『食べ物を残しちゃあいかんなあ。こんなことやってると貧乏になるよ。餓死してる人もいるんだよ。』 「あっ、そうですね。」姉さんは思わず恐縮した。 『どれどれ、わしが食べてやろう。』 「あっ、食べてください。こんなものでよろしかったら。」 姉さんは急いで、新しい皿と割り箸を取りに行った。直ぐに戻ってきた。 「どうぞ。」 『じゃあ、頂こうかな。』 貧乏神は、『いただきます。』と言ってから食べ始めた。 『う〜ん、久しぶりだ。』 みんなは、見守るばかりだった。 『実体を見せたのは、五ヶ月振りくらいだな。ということは、五ヶ月振りの食事か。』 若者は、びっくりした。 「五ヶ月振りと言うと、五ヶ月前まで何も食べてなかったんですか?」 「そういうことになるかな。」 「お腹、空かなかったんですか。」 『透明で見えてないときには、まったく空かないんだよ。』 若者は、びっくりした。他の者は、ちっともびっくりはしなかった。 貧乏神は、食べながら若者を見た。 『少しも、死にたそうな顔をしてないけど?』 若者は、率直に答えた。 「わたし、死にたくはないんです!」 姉さんが、若者をかばうように弁護した。 「間違って入り込んじゃったらしいんです。」 『間違って?』 若者が答えた。 「自殺の真似をして、わたしを殺してくださいと、人に頼んだんです。」 『そういうことをしちゃあいけないなあ。』 姉さんが、貧乏神に尋ねた。 「死神に、そのことを説明していただけませんでしょうか。」 『それは駄目だな。死神には死の言葉しか聞こえない。』 「他に、何かいい方法はないんでしょうか。」 姉さんは、なぜか必死だった。 『死神は、死ぬことを考えなければ自然に出て行く。でも、1年はかかるな。』 「彼を直ぐに助けたいんです。」 『わしが彼の心に入れば、死神は直ぐに出て行く。しかし、わしが彼の心から出られなくなる。』 「風魔の秘術を使っても駄目ですか。」 貧乏神の顔色が変わった。 『風魔の秘術!?』 「はい!」 「先ほどより、只者(ただもの)ではないと見ていたが、そなたたち、いったい何者だ?なぜ、そのようなものを知っている!?」
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