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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第32回   神々の書
けんけん姉さんは。小さな声で言った。
「お父さん。ひょっとしたら、すき焼きに誘惑されて出てくるかも知れないわ。」
発明家のお父さんは、教えるように言った。
「死神は、生きてる人間の魂しか食べないよ。」
「じゃあ、どうしてすき焼きを見てるの。」
「さ〜、それは死神に聴いてみなきゃあ分からないな。」

 死神は一言も喋らない 何も語らない何も教えてくれない
  死神がトントンと肩を叩けば それで終わり
   死神の首切り鎌が振り下ろされて それで終わり

「神々の書には、死神の鎌から逃れるためには、他の者の魂を捧げなければならない。と書いてあったわ。」
「そうなのかい…」
「まだ方法があるのかしら。」
「貧乏神が来ると出て行くことは知ってるよ。」
「どうして?」
「死神は、貧しくても苦しくても、しつこく生きさせる貧乏神が嫌いなんだよ。」
「なるほどね。じゃあ、貧乏神が来ればいいんだね。」
「でも、貧しくなっちゃうよ。」
「お金が無くなるだけでしょう。」
「心も貧しくなっちゃうよ。」
「心も…」
「心が貧しくなるから、お金が来なくなる。ということかな。」
「人徳ってやつか。」
「それに、心が貧しいと邪気が溜まり、変な妖怪が集まってくる。」
「変な妖怪?」
「餓鬼とか、妬(ねた)み姫とか、僻(ひが)み小僧とか、天邪鬼(あまのじゃく)とか、いちゃもん坊主とか。」
「そっうかあ。それは最悪だねえ。」
「死神は、すき焼きを見てるんじゃないんじゃないか。」
「えっ?」
「すき焼きの後ろを見てるんじゃないかなあ。」
「えっ。」姉さんは後ろを見た。何も無かった。
「何も無いわよ。」
駄洒落坊主が「ごちそうさまでした。」と言って、食べ残しのオカラを持って立とうとした。
姉さんが制した。
「おから、ちゃんと食べてよ。ちょっと残っているじゃない。」
駄洒落坊主は、「あっ、ほんとだ!」と言って、再び座り直し。
「また、おかられた。」と、ぼやいて食べた。
姉さんが怒った。
「あんた、変な駄洒落、止めてよ!」
駄洒落坊主は頭を下げ、「ごめんなさい。」と言って謝った。
姉さんが駄洒落坊主に、「行ったついでに、お茶とみかんを持って来て。」と言った。
「はい。」
駄洒落坊主は素直に返事をすると、立ち上がり台所に向かおうとした。ドスンと誰かに当たり尻餅をついた。
「あれっ、ここに誰かいる!?」



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