けんけん姉さんは。小さな声で言った。 「お父さん。ひょっとしたら、すき焼きに誘惑されて出てくるかも知れないわ。」 発明家のお父さんは、教えるように言った。 「死神は、生きてる人間の魂しか食べないよ。」 「じゃあ、どうしてすき焼きを見てるの。」 「さ〜、それは死神に聴いてみなきゃあ分からないな。」
死神は一言も喋らない 何も語らない何も教えてくれない 死神がトントンと肩を叩けば それで終わり 死神の首切り鎌が振り下ろされて それで終わり
「神々の書には、死神の鎌から逃れるためには、他の者の魂を捧げなければならない。と書いてあったわ。」 「そうなのかい…」 「まだ方法があるのかしら。」 「貧乏神が来ると出て行くことは知ってるよ。」 「どうして?」 「死神は、貧しくても苦しくても、しつこく生きさせる貧乏神が嫌いなんだよ。」 「なるほどね。じゃあ、貧乏神が来ればいいんだね。」 「でも、貧しくなっちゃうよ。」 「お金が無くなるだけでしょう。」 「心も貧しくなっちゃうよ。」 「心も…」 「心が貧しくなるから、お金が来なくなる。ということかな。」 「人徳ってやつか。」 「それに、心が貧しいと邪気が溜まり、変な妖怪が集まってくる。」 「変な妖怪?」 「餓鬼とか、妬(ねた)み姫とか、僻(ひが)み小僧とか、天邪鬼(あまのじゃく)とか、いちゃもん坊主とか。」 「そっうかあ。それは最悪だねえ。」 「死神は、すき焼きを見てるんじゃないんじゃないか。」 「えっ?」 「すき焼きの後ろを見てるんじゃないかなあ。」 「えっ。」姉さんは後ろを見た。何も無かった。 「何も無いわよ。」 駄洒落坊主が「ごちそうさまでした。」と言って、食べ残しのオカラを持って立とうとした。 姉さんが制した。 「おから、ちゃんと食べてよ。ちょっと残っているじゃない。」 駄洒落坊主は、「あっ、ほんとだ!」と言って、再び座り直し。 「また、おかられた。」と、ぼやいて食べた。 姉さんが怒った。 「あんた、変な駄洒落、止めてよ!」 駄洒落坊主は頭を下げ、「ごめんなさい。」と言って謝った。 姉さんが駄洒落坊主に、「行ったついでに、お茶とみかんを持って来て。」と言った。 「はい。」 駄洒落坊主は素直に返事をすると、立ち上がり台所に向かおうとした。ドスンと誰かに当たり尻餅をついた。 「あれっ、ここに誰かいる!?」
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