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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第30回   ニンジンなんて
「用意が出来るまで、ティーでも飲んでてください。」
姉さんは、テーブルにカップとソーサーの入ったティーラックとティーポットを置いた。
「ダージリンティーです。」
「なにか手伝わせてください。」
「だいじょうぶです。」
「お父さん、ホットプレート持って来て。」
「あい、分かった。」
姉さんは、妖怪たちに向かって言った。
「あんたたち妖怪だから、夕食はニンジンだけでいいでしょう。」
妖怪たちは、それぞれに、
「貧乏反対!」「貧乏反対!」「貧乏反対!」と、言い合った。
妖怪たちが歌いだした。

 ニンジンなんて らら〜ら〜ららら〜 ら〜らら〜 ♪

姉さんは、「じょうだん、冗談。」と言って、さっさといなくなった。
妖怪駄洒落坊主が出てきて、ティーポットの横に立った。
「おいらが、注(そそ)ぎましょう。」
駄洒落坊主は、五人分のカップを出し、ダージリンティーを注(そそ)いだ。
注(そそ)ぎ終わると、
「母なる大地に、お祈りを言いましょう。」と、みんなに言い、
「お客さんも復唱を、お願いします。」と、若者に言った。
若者は、「あっ、はい。」と、素直に答えた後、「ひとつ足りないんじゃないですか?」と、静かに質問した。
駄洒落坊主は、
「お父さんは、ティーが嫌いなんです。」と答えると、目を閉じ手を合わせた。
「母なる大地の恵みに感謝します!」

 < 母なる大地の恵みに 感謝します! >

「みなさん、どうぞ、お召し上がりください。」
赤鬼が、「わ〜〜い!」と言い、青鬼は、「いっただきま〜す!」と言ってから、静かに飲み始めた。
若者も、「いただきます!」と言ってから、飲み始めた。
若い特攻隊の亡霊も、目に涙を浮かべ「いただきます。」と言ってから飲み始めた。
みんなが飲んでいると、お父さんが、ホットプレートを持ってやってきた。黙って、テーブルの中央に置いた。
みんなが、ほぼ飲み終わりテレビを見ていると、姉さんがキャリーを押してやってきた。
キャリーの上には、下ごしらえした肉や野菜が載っかっていた。
「テーブルが狭いから、片付けてちょうだい。」
妖怪たちは、「は〜い。」と言って、台所に持って行った。若者も持って行った。
彼らが戻ってくると、姉さんは電気ホットプレートに野菜と肉を入れ終わっていた。全員席に着いた。
お父さんが若者に、キラキラ光る名刺を手渡した。
「遅れましたが、私はこういうものです。」
若者は名刺を受け取った。
「ぅっわ〜、綺麗な名刺だなあ〜!」
「チタンです。」
「こんなの売ってるんですか?」
「普通に売ってますよ。」
「知らなかったなあ〜〜。」
若者は、キラキラ光る名刺を見た。

 風間エコナビ研究所 所長 風間小太郎

「ふうまこたろう、さん…」
「かざまと読むんです。先祖は風魔(ふうま)一族だったらしいけどね。」
「ふうまいちぞく…」
姉さんが、みんなに向かって言った。
「頂く前に、母なる大地の恵みに、お祈りをしましょう〜!」
みんなは目を閉じ、手を合わせた。カッパが窓の外で、首を傾(かし)げて、大きな目でじろりじろりとみんなを見ていた。



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