「お父さん、大変。死神がまた鎌を持ち上げたわ!」 「とりあえず笑って、手を振ろう。」 二人は、死神に笑って手を振った。 死神は、大きな首切り鎌を下ろした。 「ああ、よかった!」 「これ以上、こういう話を続けると、まずい。ソファーに座ってゆっくり考えよう。」 みんなは、それぞれにソファーに座った。 「お父さん、死神を見ないで喋れば大丈夫よ。」 「そうだな。」 いつの間にか、雨はロマンチックになっていた。 「お父さん、雨音がショパンの調べになったわ。」 「そうだね。」 窓の外の駐車場で、油だらけの妖怪が、クルマの脇に座って何かを飲んでいた。 「あの妖怪は何ですか。何を飲んでいるんですか?」 姉さんが答えた。 「あれは妖怪ガソリン猿人。ガソリンを飲んでるのよ。」 「ガソリンを!」 お父さんが答えた。 「ああやって、車が動くのを待っているんだよ。」 「脚が退化して、自分じゃ動けないのよ。」 「有毒な屁をするから、近づかないほうがいい。喉をやられる。」 「怖いですねえ。」 「あれに取り憑かれると、人間はガソリン猿人になる。」 「ガソリン猿人?」 「そこいらを、ガソリン臭を撒き散らして、暴走している連中がいるだろう。」 「ああ、暴走族とかですか?」 「そう!」 みんなは、それぞれにそれぞれの姿勢で考え込んでいた。 「お京、食事にしよう。食べれば、いい考えも出てくるだろう。」 「はい。」 「すき焼きにしようか。」 「はい。」 お父さんは、若者の方を向いた。 「君も食べて行きなさい。」 「えっ?」 「死神と一緒には帰せないよ。みんなでなんとかするから。」 けんけん姉さんが、若者の肩を叩いた。 「そうしよう、そうしよう!」 妖怪たちが、若者のそばに集まってきて、肩を叩いた。若い特攻隊の亡霊もやってきた。 赤鬼が手を上げ、見得を切った。 「お若いの、遠慮せずに食べていきなせえ〜〜〜!」 若者の目から、涙がポロポロと溢(あふ)れ出てきた。 どこからか、インディアンドラムの音が聞こえてきた。 悲しみの心を感じた、インディアン妖怪、涙ポロポロだった。 小雨降る窓の外で、太鼓のリズムに合わせて大地を踏み鳴らし、くるくる回りながら悲しく激しく踊っていた。
心に響け太鼓のリズム 心を叩け太鼓のリズム ♪ ドンドコドンドコ 太鼓に合わせ 母なる大地を踏み鳴らせ ♪ ドンドコドンドコ 太鼓に合わせ 悲しい心を踏み鳴らせ ♪
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