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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第29回   ガソリン猿人
「お父さん、大変。死神がまた鎌を持ち上げたわ!」
「とりあえず笑って、手を振ろう。」
二人は、死神に笑って手を振った。
死神は、大きな首切り鎌を下ろした。
「ああ、よかった!」
「これ以上、こういう話を続けると、まずい。ソファーに座ってゆっくり考えよう。」
みんなは、それぞれにソファーに座った。
「お父さん、死神を見ないで喋れば大丈夫よ。」
「そうだな。」
いつの間にか、雨はロマンチックになっていた。
「お父さん、雨音がショパンの調べになったわ。」
「そうだね。」
窓の外の駐車場で、油だらけの妖怪が、クルマの脇に座って何かを飲んでいた。
「あの妖怪は何ですか。何を飲んでいるんですか?」
姉さんが答えた。
「あれは妖怪ガソリン猿人。ガソリンを飲んでるのよ。」
「ガソリンを!」
お父さんが答えた。
「ああやって、車が動くのを待っているんだよ。」
「脚が退化して、自分じゃ動けないのよ。」
「有毒な屁をするから、近づかないほうがいい。喉をやられる。」
「怖いですねえ。」
「あれに取り憑かれると、人間はガソリン猿人になる。」
「ガソリン猿人?」
「そこいらを、ガソリン臭を撒き散らして、暴走している連中がいるだろう。」
「ああ、暴走族とかですか?」
「そう!」
みんなは、それぞれにそれぞれの姿勢で考え込んでいた。
「お京、食事にしよう。食べれば、いい考えも出てくるだろう。」
「はい。」
「すき焼きにしようか。」
「はい。」
お父さんは、若者の方を向いた。
「君も食べて行きなさい。」
「えっ?」
「死神と一緒には帰せないよ。みんなでなんとかするから。」
けんけん姉さんが、若者の肩を叩いた。
「そうしよう、そうしよう!」
妖怪たちが、若者のそばに集まってきて、肩を叩いた。若い特攻隊の亡霊もやってきた。
赤鬼が手を上げ、見得を切った。
「お若いの、遠慮せずに食べていきなせえ〜〜〜!」
若者の目から、涙がポロポロと溢(あふ)れ出てきた。
どこからか、インディアンドラムの音が聞こえてきた。
悲しみの心を感じた、インディアン妖怪、涙ポロポロだった。
小雨降る窓の外で、太鼓のリズムに合わせて大地を踏み鳴らし、くるくる回りながら悲しく激しく踊っていた。

 心に響け太鼓のリズム 心を叩け太鼓のリズム ♪
  ドンドコドンドコ 太鼓に合わせ 母なる大地を踏み鳴らせ ♪
   ドンドコドンドコ 太鼓に合わせ 悲しい心を踏み鳴らせ ♪


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