若い特攻隊の亡霊も出てきた。 「みんなの大和魂でやっつけましょう!」 若者は、特攻隊の亡霊を見るのは初めてだった。軽く会釈した。 姉さんが、みんなに言った。 「みんなで力を合わせれて睨みつければ、出て行くかもよ。チリも積もれば山となるって言うじゃない。」 駄洒落坊主が、姉さんの後ろで言った。 「そうです。チリも積もれば、大和魂とも言います。」 「そんなの、言わないわよ!」 「失礼しました。」 発明家のお父さんが、みんなの勢いを遮(さえぎ)った。 「それは止めたほうがいい。相手は神様だ。怒らせたらとんでもないことになる。」 死神が、鎌を一振りした。 みんな目眩(めまい)がして、倒れこんだ。 お父さんは、ソファーに倒れこんだ。 「ほらな。パワーが違うんだよ!」 けんけん姉さんは、床に倒れていた。 「鬼の金棒(かなぼう)でも駄目なの。」 「そんなことをしたら、あっけなく鬼が殺されるよ。レベルが違うんだよ。」 姉さんは、指をパチンと鳴らした。 「そうだ、貧乏神だと追い出せるよ。」 「あんまり手荒なことはやらないほうがいい。みんなで頭を使おう。」 「お父さん。でも、どうして死神がとりついたんだろう。」 お父さんは、若者をソファーに座らせた。 「詳しく話してください。」 若者はソファーに座ると、自分の身分を明かした。 「実はわたし、高坂一平という私立探偵でして…」 姉さんは、びっくりした。 「あなた、探偵だったの?」 「ええ。」若者は、お父さんと姉さんに名刺を渡した。 姉さんは、名刺を凝視した。 「探偵さんが何で、自殺なんかを?」 「実は、このあたりに自殺請負人がいるという情報がありまして。」 「じさつうけおいにん?」 「ええ。その自殺請負人を捜しているんです。」 お父さんは、不思議そうな顔をした。 「この辺に、そんなのがいるのかねえ?聞いたことないなあ。」 「で、わたしが自殺志願者のふりをして、捜していたんです。」 「なるほど、そういうことだったんだ。」 お父さんは眉をひそめた。 「どういう言葉で捜していたんですか。」 「わたしを殺してくれませんか。だったかな…」 「ああ分かった、それだ!」 けんけん姉さんも、納得した顔になった。 「たぶん、それだね。」 「えっ!?」 「その言葉を、偶然通りかかった暇な死神が聞いたのよ。」 死神は、背丈以上の首切り鎌を持ち、不思議そうに三人を見ていた。 若者は、姉さんに質問した。 「だったら、説明すれば分かるんじゃないでしょうか?」 「それが駄目なのよ。」 お父さんが、言葉を付け加えた。 「死神には、死の言葉しか聞こえないんだよ。」
死神が、静かに首切り鎌を持ち上げた。
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