カラオケの横に、双子のパチンコみたいなものが置いてあった。裏表にパチンコ台が張ってあった。 「これ、何ですか?」 「これは、お父さんが発明した、対戦パチンコ!」 「対戦パチンコ?」 「向かい合って対戦するの。ハズレた玉は相手のパチンコ台に吸い込まれて、相手の玉になるの。」 「なんか面白そうですね。」 「ふたりいないと駄目なのよ。」 お父さんが、嬉しそうに出てきた。 「まだまだ調整中なんだよ。」 「出来たらやってみたいなあ。」 「そんなことより、早く温めないと、邪気が入ってきて風邪を引くわよ。」 「あっ、そうだ。忘れてた!」 若者は、急いで二階に上がろうとした。 「そうだ。妖怪は、もう出ないですよね。」 「浴室には、妖怪よけの大きな鏡があるから大丈夫よ。」 「妖怪よけの鏡?」 「妖怪は、鏡に映った自分の醜い顔と心に吐き気をもよおすの。」 「自業自得ってやつですね。」 「そういうこと。廊下は赤鬼が見張ってるから大丈夫よ。」 若者は赤鬼を見た。赤鬼は、大きく目を見開き右手を上げ正々堂々と見栄を切った。 「任せてちょうだい!」 「ちゃちな妖怪だと、この建物の中には入って来ないわ。」 「もしも出てきたら、どうしたらいいんでしょう。」 「赤鬼のように、天に大きく手をかざして、堂々と<我こそは、なになになり〜!>と、自分の名前を告げて見栄を切るの。そしたら、恐れをなして逃げて行くわ。」 「そんなことで?」 「邪悪な魂は、正面からの攻撃に弱いの。」 「大きく堂々とですね。分かりました!」 若者は、堂々と鬼のような形相で二階に上がって行った。 姉さんは笑っていた。 「意外と単純な人なんだなあ〜。」 青鬼が外からやってきた。そして、綿棒で耳穴の掃除を始めた。 「あ〜〜〜、耳に水が入っちゃった!」 妖怪駄洒落坊主が隣にいて、「鬼に綿棒。」と呟(つぶや)いた。
浴室の手前の脱衣場には、自動販売機のようなものが置いてあった。 「なんだあこりゃあ?」 よく見ると、温泉の選択ボタンだった。 「こりゃあ、まるで、温泉の自動販売機だなあ…」 説明書きの下のほうに、【風間(かざま)エコナビ研究所】と記してあった。 その下に、特許登録番号と政府認可の安全性能検査済マークが貼ってあった。 「これも発明品かなあ…」 各選択ボタンには、【松】【竹】【梅】【エメラルドの伝説】【ゆずの里】と示されていた。 「エメラルドの伝説って、なんだろう…」
エメラルドの伝説 北欧フィンランドの森を想わせる白樺の香り 成分 塩化Na/PEG-90M/ケープアロエエキス/ユキノシタエキス/パパイン
「北欧フィンランドの森…、ふ〜〜ん?」
各コース 30分 千円 ボタンを押し 20秒ほどしてから入ってください
「まあいいや。これでやってみよう。」 若者はボタンを押した。 「あれ?」 五秒ほど待ったが、何の反応もなかった。 「あっ、そうか。さっきもらったカードを入れるんだ。」 若者はカードを差し込んだ。各ボタンが点灯した。 「よし、これでいいんだな…」 若者はボタンを押してから、服を脱いだ。隣に、コインランドリーが置いてあった。 「面倒だから、全部洗っちゃおう!」 若者は、コインを入れ、着ていた物を入れ込んだ。浴室の引き戸を開けた。 「わぁ〜〜〜ぁ!」
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