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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第21回   天の邪鬼(あまのじゃく)
「てっきり、ラッパかと思ったよ。」
「ラッパって、なんですか?」
「ラッパとは、風魔忍者のことじゃ。」
「ふうまにんじゃ…」
「忍者とは名ばかりの、盗賊集団じゃ。」
雨がダンボールを、ドドドン♪ドドドン♪とドラムのように叩いていた。
「なんか、この音いいなあ。初めて体験する世界だなあ。」
「そうか、わしも入ってみたいのお。」
砂と松の葉にまみれた歩道を、一適一滴のつぶらな雨が、懸命に真面目に歩道を洗っていた。
覗き窓から、ダンボールの中を無邪気な雨の小妖精が、きょろきょろと覗いていた。
後ろから、ペタペタと足音が聞こえてきた。二人は道の脇に避(よ)けた。
一メートルほどの緑色の妖怪が、手の甲を交互に出しながら、
「ひゃっほ〜、ひゃっほ〜、ひゃっほ〜!」と奇声を発し、魚のような臭いを残して走り抜けて行った。
背中に亀の甲羅みたいなのをかついでいた。
「なんだい、ありゃあ〜!?」
「カッパだ。雨が降ると嬉しくって、あちこち走り回るんじゃ。」
「あれがカッパですか。初めて見ました。」
「走り回るだけで、悪いことはせん。」

浜辺では、深緑色の五匹の海の妖怪たちが、海草を身体に巻き、正月を祝って酒を飲み右回りで、スローテンポな足取りで楽しそうに踊っていた。
「あの妖怪たちは?」
「海草の好きな海草頭という妖怪じゃ。あいつらに頭を撫でられると髪がふさふさと生えてくる。」
「え〜〜!?」
「あいつらも、大雨が好きなんじゃ。」
彼らと少し離れたところで、小さな妖怪が、彼らとは逆周りで悲しそうにmアップテンポな足取りで踊っていた。
「あの悲しそうに踊ってる青い鬼みたいなのは、何ですか。」
「あれは、天の邪鬼(あまのじゃく)じゃ。」
「悲しかったら、踊らなきゃあいいのに?」
「悲しいふりをしているだけじゃあ。あれは何でも逆をやるんじゃ。」
「あまのじゃくなやつですねえ。」
「だから、天邪鬼(あまのじゃく)というんじゃ。」
「どんな顔してるんだろう?」
「あやつに近づいたら、おぬしも天邪鬼になるぞ。」

 【 右 おから燃料自動車研究所 左 妖怪温泉 】

「おから自動車研究所?…」
「からくり屋の類(たぐ)いじゃろう。」
やや遠くに、妖怪温泉の大きな看板が見えた。どこかで見たような妖怪が描かれてあった。
「あっ、あそこだ!」
大雨に混じって、数本の矢が降ってきた。侍の亡霊はとっさに槍で矢を払った。
「風魔流雨矢。ラッパだ!」
手裏剣が雨を縫って飛んできた。侍は身体を伏せた。手裏剣は侍の後ろの松の木に刺さった。
松の木が「痛い!」と叫んだ。若者は状況が飲み込めずに叫んだ。
「どうしたの!?」
「心配めさるな。亡霊の武器は生きてる者には通じはせぬ!」
「どうすればいいの!?」
「先に行かれよ!」
「えっ、そんなのいやだよ!」
「わしは強いから大丈夫じゃ。決着をつけたら必ず戻る。」
「じゃあ、妖怪温泉で待ってるよ!」
「わかりもうした。早く行かれい!」
若者はダンボールを捨て、妖怪温泉に向かって走りだした。
雨は、容赦なく叱(しか)る母親のように激しく降っていた。風は、知らん顔の父親のように無かった。

上から何者かが飛び降りてきた。やんわりと猫のように着地した。
「一人になるのを待っていたにゃあ!」
それは、風の死の妖精だった。
「おまえ、生きてたのか!?」
「二時間で生き返りますにゃあ。」
「何か用か!?」
「食べ残しを食べに来ましたにゃあ〜!」
「あっちに行け、化け物!」
「人間は死ぬために産まれてきましたにゃあ。」
猫の化け物は、そろりそろりと近づいてきた。
「いいケツしてまんにゃあ。」
逃げようとしたが、若者の脚は動かなかった。
「お面、お面!」
ハッシーの御面を取ろうとしたが、腕が動かなかった。
猫の化け物は、よだれを垂らしてながら若者の背後に回り込んだ。
「じゃあ遠慮なく、ここからいただきますにゃん。」
若者は絶叫した。
「わぁ〜〜〜〜〜!」



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