「てっきり、ラッパかと思ったよ。」 「ラッパって、なんですか?」 「ラッパとは、風魔忍者のことじゃ。」 「ふうまにんじゃ…」 「忍者とは名ばかりの、盗賊集団じゃ。」 雨がダンボールを、ドドドン♪ドドドン♪とドラムのように叩いていた。 「なんか、この音いいなあ。初めて体験する世界だなあ。」 「そうか、わしも入ってみたいのお。」 砂と松の葉にまみれた歩道を、一適一滴のつぶらな雨が、懸命に真面目に歩道を洗っていた。 覗き窓から、ダンボールの中を無邪気な雨の小妖精が、きょろきょろと覗いていた。 後ろから、ペタペタと足音が聞こえてきた。二人は道の脇に避(よ)けた。 一メートルほどの緑色の妖怪が、手の甲を交互に出しながら、 「ひゃっほ〜、ひゃっほ〜、ひゃっほ〜!」と奇声を発し、魚のような臭いを残して走り抜けて行った。 背中に亀の甲羅みたいなのをかついでいた。 「なんだい、ありゃあ〜!?」 「カッパだ。雨が降ると嬉しくって、あちこち走り回るんじゃ。」 「あれがカッパですか。初めて見ました。」 「走り回るだけで、悪いことはせん。」
浜辺では、深緑色の五匹の海の妖怪たちが、海草を身体に巻き、正月を祝って酒を飲み右回りで、スローテンポな足取りで楽しそうに踊っていた。 「あの妖怪たちは?」 「海草の好きな海草頭という妖怪じゃ。あいつらに頭を撫でられると髪がふさふさと生えてくる。」 「え〜〜!?」 「あいつらも、大雨が好きなんじゃ。」 彼らと少し離れたところで、小さな妖怪が、彼らとは逆周りで悲しそうにmアップテンポな足取りで踊っていた。 「あの悲しそうに踊ってる青い鬼みたいなのは、何ですか。」 「あれは、天の邪鬼(あまのじゃく)じゃ。」 「悲しかったら、踊らなきゃあいいのに?」 「悲しいふりをしているだけじゃあ。あれは何でも逆をやるんじゃ。」 「あまのじゃくなやつですねえ。」 「だから、天邪鬼(あまのじゃく)というんじゃ。」 「どんな顔してるんだろう?」 「あやつに近づいたら、おぬしも天邪鬼になるぞ。」
【 右 おから燃料自動車研究所 左 妖怪温泉 】
「おから自動車研究所?…」 「からくり屋の類(たぐ)いじゃろう。」 やや遠くに、妖怪温泉の大きな看板が見えた。どこかで見たような妖怪が描かれてあった。 「あっ、あそこだ!」 大雨に混じって、数本の矢が降ってきた。侍の亡霊はとっさに槍で矢を払った。 「風魔流雨矢。ラッパだ!」 手裏剣が雨を縫って飛んできた。侍は身体を伏せた。手裏剣は侍の後ろの松の木に刺さった。 松の木が「痛い!」と叫んだ。若者は状況が飲み込めずに叫んだ。 「どうしたの!?」 「心配めさるな。亡霊の武器は生きてる者には通じはせぬ!」 「どうすればいいの!?」 「先に行かれよ!」 「えっ、そんなのいやだよ!」 「わしは強いから大丈夫じゃ。決着をつけたら必ず戻る。」 「じゃあ、妖怪温泉で待ってるよ!」 「わかりもうした。早く行かれい!」 若者はダンボールを捨て、妖怪温泉に向かって走りだした。 雨は、容赦なく叱(しか)る母親のように激しく降っていた。風は、知らん顔の父親のように無かった。
上から何者かが飛び降りてきた。やんわりと猫のように着地した。 「一人になるのを待っていたにゃあ!」 それは、風の死の妖精だった。 「おまえ、生きてたのか!?」 「二時間で生き返りますにゃあ。」 「何か用か!?」 「食べ残しを食べに来ましたにゃあ〜!」 「あっちに行け、化け物!」 「人間は死ぬために産まれてきましたにゃあ。」 猫の化け物は、そろりそろりと近づいてきた。 「いいケツしてまんにゃあ。」 逃げようとしたが、若者の脚は動かなかった。 「お面、お面!」 ハッシーの御面を取ろうとしたが、腕が動かなかった。 猫の化け物は、よだれを垂らしてながら若者の背後に回り込んだ。 「じゃあ遠慮なく、ここからいただきますにゃん。」 若者は絶叫した。 「わぁ〜〜〜〜〜!」
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