20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:シュールミント 作者:毬藻

第16回   よーいどん妖怪
すずかは マイナス23℃で凍っています 早く帰ってきて私を溶かしてください
 ときどきいやなやつが来て 同じ空気を吸いたくないときもあるけど 元気だよ

「凍っちゃったんだ。早く帰んないと、大変だ!」

 すずかちゃん ごめんなさい
 僕は慌ててここに来ました
 そして 慌てて生きようとしています
 君を溶かすだなんて そんな怖いことはできません
 なぜなら 死神が僕の中にいて 生きているから
 ときどき 死神の鼻歌が聞こえてくるんです

「おや、ドクダミじゃ。」
侍の亡霊は、槍を地面に置くと、どくだみの葉を摘み始めた。
「妖怪は、どくだみの匂いを嫌うんじゃ。」
二十枚ほど取ると、若者に渡した。
「帰ったら、これを煎じて飲むがよかろう。邪気が消える。邪気が消えると死神も出て行く。」
「せんじる?…どうやってせんじるんですか?』
「そんなことも知らんのか。煎じたことはないのか。」
「はい。」
「干して、土瓶(どびん)で煎じるんじゃよ。ほんとうは、花が咲く夏頃の葉がいいんじゃがな。」
「どびんって何ですか。」
「土瓶(どびん)も知らんのか。茶を沸かすやつじゃよ。」
「ああ、分かりました。」
「おぬし、三十日の間、笑って暮らせるかな。」
「やってみます。」
「死神はしつこくて強いぞ。」
「そうなんですか。」
「…そういえば、やつならなんとかなるかもしれんな。」
「えっ!?」
「風魔小太郎なら、死神をなんとかできるぞ。」
「ほんとうですか。」
「ああ。」
近くに、身長一メートルくらいの小さなマラソン選手みたいな格好をした、三つの妖怪がやってきた。
妖怪たちは、それぞれに赤・青・黄色のランニングパンツと靴を履き、赤・青・黄色のハチマキをしていた。
「なんだ、ありゃあ?」
「あれか。あれは、よーいどん妖怪じゃ。」
上空から甲高い声が発せられた。
「いちについてぇ〜〜!」
三つの妖怪たちは、体を落とし、クラウチングスタートの姿勢になった。
「よ〜〜〜い!」
静寂が周りの音をさえぎった。この瞬間、カラスの鳴き声は聞こえてなかった。風だけが流れていた。
「どん!」
臆病なハトがびっくりして飛んでいった。
三匹の妖怪たちは、45度の角度で上空に向かって、びょ〜〜んと飛び出して行った。
そして、ロケットのように、みるみるうちに見えなくなってしまった。
「あの妖怪たち、どこに行くんですか?」
「さあなあ。いつもああやって空の彼方に、さっさと行ってしまうんだよ。」
「不思議な妖怪ですねえ。」
「妖怪のやってることは、さっぱり分からん。」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 16821