20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:シュールミント 作者:毬藻

第13回   妖怪ワイン
「あっ、爺ちゃんだ!」
若者は、風に向かって駆け出した。
「じいちゃ〜〜ん!」
爺ちゃんは、若者の方を向いた。笑っていた。
「じいちゃん。こんなところで何してんだい?」
じいちゃんは、花壇の周りのベンチに座り、笑っていた。
確かに、六年前に死んだ祖父だった。足首をさすっていた。
「無理して歩くからだよ。」
祖父は何も言わず、笑っていた。ビニール袋の中に缶ジュースが一本あったので、取って見せた。
「これ、新製品なんだ。飲む?」
祖父は少し笑いながら、手を横に振った。
「おぶってやるから帰ろう。」
祖父は何も言わず、首を振った。笑っていた。若者は、祖父の隣に座った。
「なんでこんなところにいるの?」
祖父は笑って手を振ると、静かに歩き出し消えていった。
「爺ちゃ〜〜ん!」
若者には、亡霊だと分かっていたが、そんなことはどうでもよかった。逢えたことが嬉しかった。
「確かに、じいちゃんだったよな。どうしてこんなところに来たんだろう。」
真冬の温かさに、間違って咲いた一輪の見知らぬ花が「寒いよ〜、寒いよ〜!」と言って震えていた。
その上を、綺麗な花の妖精がふわふわと蝶々のように飛んでいた。
きっと「死ぬなよ!」って、言いに来たんだよ。と、若者に囁(ささや)くように伝えた。
若者は、花の妖精に「ありがとう。」と、礼を言った。
それから「絶対に死なないよ〜〜!」と、心のなかで心が裂けるほど叫んだ。
花の妖精は、シャボン玉が消えるように、はじけながらいなくなった。
風がヒューヒューと笑いながら、若者の頬を雨上がりの指で何かを促すように撫でた。
周りをよく見ると、沢山の亡霊たちが、新春の森を何も語らずに、音もなく静かに彷徨(さまよ)っていた。
「ほんとうは、たくさんいるんだなあ。今まで見えなかっただけなんだ。」
サボテンラーメンの屋台がやってきて、商売を始めた。
ハッシーのところにいた鎧姿の亡霊が、槍をかついでやってきた。
「それをひとつくれ。ここに砂金がある。これで頼む。」屋台のおじさんには亡霊の声は聞こえなかった。
亡霊は肩を落として去って行った。

 どうしようもない日々が どうしようもない風に流されて はじけて死んだ
  どうしようもない人生が どうしようもない風に流されて 笑って死んだ
    見知らぬところで 行き場のない亡霊たちが 何かを求めて歩き始めた 

若者は両肩に冷たくてぞっとする風を感じた。後ろに殺気を感じた。
振り向くと、一メートルほどの紫色の服を着た猫顔の少女が立っていた。少女は眉間に目玉を寄せ、口を尖らせて口笛を吹いていた。
 ヒュ〜ピュ〜 ヒュ〜ピュ〜 ヒュ〜〜〜ル ピュ〜ピュ〜〜♪
「一月なのに温かいですにゃあ。」
「ぅわ〜〜〜、また出た〜〜!」
「久しぶりですにゃあ。」
「何しに来た!?」
「塩と胡椒を持ってきましたにゃあ。妖怪ワインもあるにゃあ。」
若者は逃げようとしたが、身体が動かなかった。
「いいケツしてますにゃあ。」少女は、若者の後ろに回り、お尻を撫でた。

 魂のない肉は 腐りますにゃあ
  腐った肉は賞味期限を貼り変えても 売れないですにゃあ



← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 16821