「あっ、爺ちゃんだ!」 若者は、風に向かって駆け出した。 「じいちゃ〜〜ん!」 爺ちゃんは、若者の方を向いた。笑っていた。 「じいちゃん。こんなところで何してんだい?」 じいちゃんは、花壇の周りのベンチに座り、笑っていた。 確かに、六年前に死んだ祖父だった。足首をさすっていた。 「無理して歩くからだよ。」 祖父は何も言わず、笑っていた。ビニール袋の中に缶ジュースが一本あったので、取って見せた。 「これ、新製品なんだ。飲む?」 祖父は少し笑いながら、手を横に振った。 「おぶってやるから帰ろう。」 祖父は何も言わず、首を振った。笑っていた。若者は、祖父の隣に座った。 「なんでこんなところにいるの?」 祖父は笑って手を振ると、静かに歩き出し消えていった。 「爺ちゃ〜〜ん!」 若者には、亡霊だと分かっていたが、そんなことはどうでもよかった。逢えたことが嬉しかった。 「確かに、じいちゃんだったよな。どうしてこんなところに来たんだろう。」 真冬の温かさに、間違って咲いた一輪の見知らぬ花が「寒いよ〜、寒いよ〜!」と言って震えていた。 その上を、綺麗な花の妖精がふわふわと蝶々のように飛んでいた。 きっと「死ぬなよ!」って、言いに来たんだよ。と、若者に囁(ささや)くように伝えた。 若者は、花の妖精に「ありがとう。」と、礼を言った。 それから「絶対に死なないよ〜〜!」と、心のなかで心が裂けるほど叫んだ。 花の妖精は、シャボン玉が消えるように、はじけながらいなくなった。 風がヒューヒューと笑いながら、若者の頬を雨上がりの指で何かを促すように撫でた。 周りをよく見ると、沢山の亡霊たちが、新春の森を何も語らずに、音もなく静かに彷徨(さまよ)っていた。 「ほんとうは、たくさんいるんだなあ。今まで見えなかっただけなんだ。」 サボテンラーメンの屋台がやってきて、商売を始めた。 ハッシーのところにいた鎧姿の亡霊が、槍をかついでやってきた。 「それをひとつくれ。ここに砂金がある。これで頼む。」屋台のおじさんには亡霊の声は聞こえなかった。 亡霊は肩を落として去って行った。
どうしようもない日々が どうしようもない風に流されて はじけて死んだ どうしようもない人生が どうしようもない風に流されて 笑って死んだ 見知らぬところで 行き場のない亡霊たちが 何かを求めて歩き始めた
若者は両肩に冷たくてぞっとする風を感じた。後ろに殺気を感じた。 振り向くと、一メートルほどの紫色の服を着た猫顔の少女が立っていた。少女は眉間に目玉を寄せ、口を尖らせて口笛を吹いていた。 ヒュ〜ピュ〜 ヒュ〜ピュ〜 ヒュ〜〜〜ル ピュ〜ピュ〜〜♪ 「一月なのに温かいですにゃあ。」 「ぅわ〜〜〜、また出た〜〜!」 「久しぶりですにゃあ。」 「何しに来た!?」 「塩と胡椒を持ってきましたにゃあ。妖怪ワインもあるにゃあ。」 若者は逃げようとしたが、身体が動かなかった。 「いいケツしてますにゃあ。」少女は、若者の後ろに回り、お尻を撫でた。
魂のない肉は 腐りますにゃあ 腐った肉は賞味期限を貼り変えても 売れないですにゃあ
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