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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第12回   ひとりっきりで
ベンチに座り、侍の鎧姿で槍を持ち、血だらけの顔でハッシーを見ている者がいた。
「なんだ、あの人!」よく見ると、亡霊だった。
「このあたりは、古戦場だったんですか?」
彼女の返事は無かった。彼女は近くでジュースを売っていた。
「おっかしいなあ、あのケンケンケンの姉さんに肩を叩かれてから、妖怪や亡霊が見える…」
「新発売の<ハッカ入り娘>は如何ですかあ。心も身体もが爽やかになりますよお。」
亡霊がやってきた。
「ひとつくれ。喉が渇いている。砂金と交換してくれ。」
彼女には聞こえていなかった。
「駒コーラの<ハッカ入り娘>は如何ですかあ〜。彷徨(さまよ)える心が癒されますよ〜。」
「それくれ!」彼女には聞こえなかった。
「如何ですかあ〜。」
亡霊は肩を落として去って行った。
亡霊の歩いて行った方向に売店があった。ハッシーの御面(おめん)らしいものがあった。
若者は見に行った。ハッシーの御面(おめん)だった。五百円で売っていた。クチバシが金色のもあった。
「あの不思議な姉さんは、金色なら何でもいいと言っていたな…」
おばさんの店員が尋ねた。
「買いますか?」
「この金色のクチバシのをください。」
「ありがとうございま〜す!」
財布の中に、五百円硬貨が二枚あった。「はい、五百円!」
おばさんは、ハッシーがプリントされたビニールの袋に入れ、若者に手渡した。
「いいおとしを。」おばさんは、ほっぺにハッシーのシールを貼っていた。
「ハッシーと金色、これなら大丈夫だ!」
ハッシーの金網の前で、老婆が手を合わせていた。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。」
売り子の彼女は忙しそうだった。
若者は彼女の前まで行き、「どうもありがとう。」と言うと、
「そのジュースを十本ください。」と言い、二千円を出した。
「えっ、十本もですか。」
「ええ。」
「そんなに飲むんですか。」
「ええ。」
彼女は、十本の<ハッカ入り娘>を、駒コーラのロゴが入ったビニール袋に入れ、彼に渡した。
「どうもありがとうございます。」
「じゃあね、頑張って!」
「あっ、ちょっと待ってください。これ、私の名刺です。」
「えっ、名刺。」
「営業用の。」
『あっ、そう。じゃあもらっとくね。』
若者は、ハッシーを見ている子供たちのところに行き、ひとりひとりにジュースを配った。子供たちは喜んだ。
ハッシーも人々も、風の音を聞きながら、何かを見ていた。それぞれが、ひとりっきりで。

 人間は沢山いるけど ひとりっきりなんだ
   沢山いるけど 自分ひとりっきりなんだ
     みんなと一緒に風の音を聞きながら ひとりっきりで 生きているんだ


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