らんらんらん♪ らんらんらん♪ バターとチーズは火に弱い〜♪ バターとチーズは火に弱い〜♪
「なに、それ?」 「バターとチーズは火に弱いの。だから、火を止めてから入れるの。」 「ふ〜〜ん。」 マッチ売りの妖精少女は、大事そうにピクニックバスケットを、左手で抱えていた。 「そのバスケット、素敵だね。」 「ありがとう。クリスマスの雪が降っている、とっても寒い日に、けんけん姉さんにもらったの。バスケットの中には、とってもとっても沢山の美味しい食べ物が入っていたのよ。」
らんらんらん♪ らんらんらん♪
「けんけん姉さん…」 「知ってるのね?」 「うん、知ってるよ。」 「お腹が空いて死にそうだったから、嘘の涙を流して病人の振りをしていたの。」 「そうなんだ。」 「そしたら、けんけん姉さんが助けてくれたの。」 「そうなんだ。」 「きっと、けんけん姉さんは、嘘の涙を知っていたんだわ。」 「どうして分かるの?」 「だって、ほんとうの涙を流していたから。」 一平は、胸が切なくなった。一粒の大きな涙が、こぼれ落ちた。 「けんけん姉さんが、バターとチーズは火に弱いって、教えてくれたの。」 「そうなんだ。」
らんらんらん♪ らんらんらん♪ バターとチーズは火に弱い〜♪ バターとチーズは火に弱い〜♪
「ピクニックバスケットの中には、たくさんの食べ物が入っていたの。」 「そうなんだ。」 「ピザトーストと、温かいスープも頂いたわ。」 「おいしかったんだね。」 「とってもとっても、おいしかったわ。きっと死ぬまで忘れないわ。」 一平は、涙が止まらなくなった。思わず、空を見上げた。涙が、容赦なく魂を濡らしていた。 「一緒に歌いましょうよ。」 「…うん!」
らんらんらん♪ らんらんらん♪ バターとチーズは火に弱い〜♪ バターとチーズは火に弱い〜♪
「寒い日には、どこで寝てるの?」 「おから自動車の中で、小さな妖精になって、バスケットに入って、七人の小人たちと一緒に寝てるわ。」 「そうだったんだ。」 「七人の小人たちと、おからを摘み食いするのよ。とっても楽しいわ。」 「お父さんが、怒るんじゃないの?」 「おからは、そんなには食べられないわ。」 「そうだね。」 「けんけん姉さんに逢う前は、妖精になって神社の中で、七人の小人たちと一緒に寝ていたの。」 「そうだったんだ。」 「憎らしい風小僧が入ってきて、とっても寒かったわ。」 「もう寒くはないの?」 「もう寒くはないわ。けんけん姉さんも、お父さんもいるから。」 「よかったね。」 「寒い日には、風の音が憎らしかったけど、今は子守唄に聞こえるわ。」 「そう。昨日は、大雨だったね。」 「雨の音も、子守唄に聞こえるわ。」 「そうなんだ。」 「朝は、小人たちが吹き飛ばされそうな風が吹いていたわ。」 「そうだったね。」
らんらんらん♪ らんらんらん♪ バターとチーズは火に弱い〜♪ バターとチーズは火に弱い〜♪
少女は、歩きながら一平の顔を見ていた。 「人間は歳とともに、心が澄んで行く人と、心が濁って行く人がいるの。」 「ふ〜〜ん。」 「あなたの心は、とっても澄んでいるわ。」 「ほんと?」 「ほんとよ。嘘なんかじゃないわ。」 「どうして分かるの?」 「目を見れば分かるわ。」 「ふ〜〜ん。」 「人は、自分の心に負けて死んでしまうの。」 「そうだね。」 「人間は、他人の熱い魂に弱いの。直ぐに溶けてしまうわ。」 「うん?」
らんらんらん♪ らんらんらん♪ バターとチーズは火に弱い〜♪ バターとチーズは火に弱い〜♪
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