森の公園の掲示板に、妖精アイドル・石川ひとみのポスターが貼ってあった。 ケンケン姉さんは、自転車を止めた。 「わ〜〜〜あ、ひっちゃんだわ!懐かしい〜〜〜!」 ケンケン姉さんは、彼女のヒット曲『まちぶせ』を歌い出した。
好きだったのよ あなた 胸の奥でずっと もうすぐわたしきっと あなたをふりむかせる〜♪
一平とスミレちゃんがやって来た。スミレちゃんが姉さんに声を掛けた。 「どうしたの、姉さん?」 「さっき、教えてあげた歌の、アイドルのおねえちゃんよ。」 「とっても素敵な歌だわ〜〜。」 スミレちゃんは歌い出した。
くるみ割り お人形〜 操る人がいないの〜〜 ♪
「この歌?」「そう。」 スミレちゃんは、目を凝らしてポスターを見ていた。 「わ〜〜あ、姉さんと違って、あしが長いわね〜〜!」「失礼ね〜〜。」「あら、ごめんなさい。」 「そんなこと、正直に言うもんじゃないわ。」 「どうして?」 「わたし、気にしてるんだから。」 「そうだたの?ちっとも知らなかったわ。だったらだったら超ごめんなさい。」 「まあいいわ、スミレちゃんは、邪気の無い妖精だから。」 「邪気?」 「心が綺麗っていうこと。」 一平が付け加えた。「僻みや妬みの心がないってことだよ。」 「ふ〜〜〜ん、そんな面倒な気持ちはないわ。妖怪みたいで気持ち悪いわ。」 「妖怪はそうなの?」 「そうなの。僻みや妬みで生きてるの。だからどろどろしてるの。あ〜〜あ、心の気持ち悪いわ!」 <駒コーラ>の小野節子がやって来た。 「心の優れない方に、ぴったりのハッカの入った、心のリフレッシュ・ジュース、心リフレッシュはいかがですか?」 一平は、彼女を呼び止めた。「そのジュースを一つください。」 「はい。あら、高坂さん。」「まだやってたの?」「はい。」「大変だねえ。」「仕事ですから。」一平は代金を払った。 スミレちゃんは一口飲んだ。一平が尋ねた。「どう?」 「うん、炭酸の入ったハッカ味だわ。」 状況に敏感な姉さんが言った。「いやな予感がするわ。「変な妖怪?」「そう…」 妖怪ひがみ小僧が、醜くくて臭い心を吐きながら、怨歌(えんか)ひがみ節を唸ってやってきた。「妖怪ひがみ小僧だわ!」
僻(ひが)み?ぃます? 妬(ねた)み?まぁす? 恨(うら)みぃ?ます?ぅ ♪
その声に導かれるように、人間が歩いて来た。「猿人間キーキーだわ!」 キーキー、キーキー、社会や他人の悪口を言いながら、猿人間キーキーはやって来た。 姉さんは、ちらっと睨んだ。「心が汚くなって暗くなって不愉快になるわ。早く行きましょう!」 姉さんは、邪気をはらう風魔の呪文を唱えた。 「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」 「猿人間キーキーは、妖怪よりも気持ち悪いわ。一平さん、行きましょう!」「分かった!」 小野節子を残し、みんなは走り出した。
上空から甲高い声が発せられた。 「いちについてぇ〜〜!」 三つの妖怪たちは、体を落とし、クラウチングスタートの姿勢になった。 三匹の妖怪たちは、45度の角度で上空に向かって、びょ〜〜んと飛び出して行った。 そして、ロケットのように、みるみるうちに見えなくなってしまった。
姉さんは、邪気を振り払うかのように、大きな声で爽やかな石川ひとみの歌を歌い出した。
くるみ割り お人形〜 操る人がいないの〜〜 ♪
スミレちゃんも、大きな声で歌っていた。
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