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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第107回   日本武士道
前方から、やつれた感じの、今にも死にそうな顔の中年の男がやってきた。立ち止まった。
「すみません。」
一平は、自転車を止めると、親切に答えた。
「何でしょうか?」
「添付ファイルの送り方、御存知ありませんか?」
「はっ?」
「いや、何でもありません。失礼しました。」
男は、お地蔵さんの方に去って行った。一平は、首を傾げた。
「何だ、今の人?」
スミレちゃんは、まだ去って行く男を見ていた。
「変な人だわ?」
「君子危うきに近寄らず。行こう!」
「くんしあやうきに近寄らず?」
「中国の孔子という人の言葉で、利口な人間は、危険には近づかないっていうことだよ。」
「ふ〜〜〜ん。今の人、危険なの?」
「分からない。分からないものは、一番危険だよ。」
「そうですね。」
「今の世の中は危険だらけ。将棋のように考えて行動しないと、怪我をするよ。」
「おうて!」
「何、いきなり!?」
「将棋で、おうて!って言うじゃない。」
「スミレちゃん、将棋できるの?」
「できないけど、お父さんと、だじゃ丸くんが、よくやってるわ。おうて、おうてって言ってるわ。」
「ああ、そう。」
「おうてって、何なの?」
「次に、王様を取るぞってことだよ。」
「とる前に言うの?」
「そうだよ。」
「黙って、こそっと取ればいいじゃない。」
「そういう卑怯なことはいけないの。」
「ひきょうなこと?」
「将棋は、ただの勝ち負けのゲームじゃないんだよ。」
「何のゲームなの?」
「相手の心を読むゲームなんだよ。だから、礼儀が必要なの。」
「ふ〜〜〜ん。でも、戦争のゲームなんでしょう?」
「そうだよ。でも、日本武士道のゲームなの?」
「にほんぶしどう?」
「殺すのにも、礼儀があるの。殺す前に、きちんと挨拶しなければいけないの。」
「ふ〜〜ん。」
「それに、歩兵では王様は取れないんだよ。」
「ほへいって?」
「下っ端の兵隊さん。身分が違うから取れないの。」
「もし、間違って取ったら?」
「反則負けになるの。」
「ふ〜〜〜ん。」
「将棋は、日本武士道なの。」
「にほんぶしどう。」
「妖精の世界にもあるでしょう、そういうのが?」
「そんなややこしいのはないわ。」
「さっき、縄文台の上で、何か言ってたじゃない。泥棒し合うとかなんとか。」
「ああ、あれ。」
「何だっけ?」
「妖精は、互いに泥棒し合って、助け合ってるの。」
「それそれ。」
「でも、なんだか、だいぶ違うわ。」
「そうだね、だいぶ違うね。」
「姉さんが待ってるわ。行きましょう、行きましょう!」
「行こう!」
一平は、自転車のペダルを踏み込んだ。


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