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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第105回   よっぱらい
「淀んだ心が、しゃっきりする、しゃっきりコーラは如何ですか〜!」
駒コーラの小野節子が、着物洋服で清涼飲料の宣伝販売をしていた。
スミレちゃんは、一平の背中を人差し指で、トントンと叩いた。一平は答えた。
「分かっているよ。止まっちゃ駄目なんでしょう?」
「違うわ、彼女の前で止まって。」
「えつ?」
一平は。言われたとおりに、彼女の前で止まった。
小野節子が、微笑みながらやってきた。
「淀んだ心が、しゃっきりする、しゃっきりコーラは如何ですか〜!」
スミレちゃんが尋ねた。
「無料なの?」
「はい。お試しなので、無料で飲めますよ。」
「じゃあ、ちょうだい。」
「はい。」
彼女は、キャリーロボットの上に置かれてあった、炭酸飲料水の入れてある容器の蛇口から、紙コップにコーラを注ぐと、スミレちゃんに手渡した。
「はい。」
「たった、これだけ?」
「お試しなので、ごめんなさい。」
スミレちゃんは、ぐいっと一口飲んだ。
「まずい!」
「えっ、まずいの?」
スミレちゃんは、一気に残りを飲み干した。
「あ〜〜〜、まずかった!」
「えっ?」
「はい!」
スミレちゃんは、紙コップを彼女に返した。
「どうもありがとう!さあ、行きましょう!」
スミレちゃんは、容赦なく一平の背中をポンと叩いた。仕方なく一平は走り出した。スミレちゃんが振り向くと、彼女は首を傾げて手を振っていた。
「ああ〜、おいしかった!」
「なあんだ、おいしかったの?」
「とっても、おいしかったわ。」
「意地悪だなあ。」
「そうかしら?」
中年の男がベンチでうずくまっていた。一平は自転車を止めた。
「おじさん、大丈夫?」
答えはなかった。スミレちゃんが、ぴょんと飛び降りた。そして、男の傍らに駆け寄って尋ねた。
「おじさん、大丈夫?」
「…なんだ?」
「おじさん、お正月ですよ!」
「なんだ?」
男は酒臭かった。
「ぐるぐるぐる雲が回ってる〜〜!」
スミレちゃんは、空を見上げた。
「雲なんか回ってないわ。」
「お〜〜、蝶々が飛んでいる〜!」
「蝶々なんか飛んでいないわ。」
「お〜〜、幸福が回ってる〜〜。」
「それは、幸福なんかではないわ。」
「なんだって?」
「心が、お酒でふらふらになってるだけよ。」
「けっこう毛だらけ、猫禿げだらけ!お〜〜、空が回ってる〜!」
「空なんか回っていないわ。」
一平がスミレちゃんに言った。
「スミレちゃん、行こう。ただの酔っ払いだよ。」
「この人、頭が変だわ。」
「変じゃなくって、ただの酔っ払いなの。さあ行こう!」
スミレちゃんは、自転車に乗り込んだ。酔っ払いが少し大きな声で言った。
「スミレちゃ〜〜〜ん、行っちゃうの〜〜?」
スミレちゃんは、びっくりした。
「あら?わたしのこと知ってるわ?」
「今、聞こえたからだよ。」
「ああ、そうか。」
一平は、ペダルを踏み込んだ。酔っ払い男は「スミレちゃ〜〜〜ん!ひゃっほ〜〜!ぷっぷっぷ〜〜〜!」と叫んでいた。スミレちゃんは振り返った。
「あの人、馬鹿だわ。」
「馬鹿じゃなくって、ただの酔っ払いなの。」
スミレちゃんには理解できなかった。


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