瑠璃色(るりいろ) 風吹くアスファルト〜♪ 飛び跳ねる赤い靴 虹を描く〜〜♪
けんけん姉さんは、新しいアスファルトの自転車専用道路を、伝説の天使の歌声の妖精アイドル・石川ひとみの、日本中の誰もが知っている楽しいヒット曲、くるみ割り人形を歌いながら走っていた。スミレちゃんを乗せた一平が運転するスミレ号は、その後を御伽噺のロバのように、のこのこと追いかけていた。スミレちゃんは、相変わらずの歌を楽しそうに脳天気に歌っていた。 「ろ〜れん、ろ〜れん、ろ〜〜れん♪」 一平は、その歌を知らなかった。 「なんなの、その歌?」 「ちゃるびん、なるびん、さるびん、とるびん!」 「なんだあ?」 「ろ〜〜〜は〜〜〜ぃど〜〜♪」 「それ、どこの歌?ひょっとしたら、北朝鮮の歌?」 「教えてあげない。」 「教えてよ〜!」 「あっ、人間オセロをやってるわ!」 「人間オセロ?」 スミレちゃんの声を聞いた姉さんは、自転車を止めた。 「せっかくだから、ちょっと見て行きましょう。」 一平も自転車を止めた。 それは、スケートボード場に設けられていた。六角枡のオセロゲーム盤が中央に描かれていた。スケートボード場の両サイドは、芝生の小さな高台になっていた。両サイドの高台には、表が白、背が黒の服を着た者が、両サイド合わせて五十人ほどいて、立ち膝で座っていた。ゲームは、すでに始まっていた。 『黒の番です。次の黒番の方は、一分以内にゲーム盤に移動して指してください。』 右側の芝生の山から一人降りてきて、ゲーム盤の黒の置かれる位置に、背中の黒が見えるように、後ろを向いて立て膝で座り込んだ。挟まれた三人の前向きの色の人間が、くるりと反転して後ろ向きの黒色になった。 『白の番です。次の白番の方は、一分以内にゲーム盤に移動して指してください。』 一平は、初めて見た。 「なるほど〜〜、おもしろいなあ!」 白が座った。オセロの上手な姉さんは、思わず呟いた。 「ああ、そこは駄目だわ。」 背後から、四輪歩行のお腹の籠にいっぱい買い物荷物を詰めた買い物ロボットが、パピィーピーとチャイムを鳴らしながらやってきた。スミレちゃんが「あっ、パピィーピーだ!」と言うと、ゲームを見ていた二人は振り向いた。 パピィーピーは、片手の平を見せて、『ごめんなすって、ごめんなすって!』と、変な甲高い音声で言いながら通り過ぎて行った。一平は笑った。 「まるで時代劇だねえ、あのロボット。ここは、感心するくらいに何もかも変わってるなあ〜。」 スミレちゃんが答えた。 「みんなと同じことをしてたら、世界に一つしかない自分が死んでしまうわ。」 世界に一つ行かない太陽が輝き、世界に一つしかない雲が悠々と音も無く流れていた。ここには、世界に一つしかないスミレちゃんがいて、世界に一つしかない姉さんがいて、世界に一つしかない一平がいた。 三人は、石川ひとみの、くるみ割り人形のように、誰にも操られずに生きていた。 「さあ、行きましょう!」 姉さんは、歌いながら走り出した。
くるみ割り お人形〜 操る人がいないの〜〜 ♪
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