澄み切った大空を渡り鳥が、集団で飛んでいた。スミレちゃんは楽しそうに、鳥たちを見た。 「わ〜〜、渡り鳥だわ〜!」 渡り鳥たちは、V字型の編隊飛行で飛んでいた。 「わ〜〜〜、きれいに飛んでるわ〜!」 一平も見ていた。 「なんだありゃあ、大きい鳥だなあ〜!凄いなあ〜!」 「どこに行くのかしら?」 姉さんが答えた。 「あれは、オオハクチョウだわ〜!」 スミレちゃんは、手を叩いて喜んでいた。 「大きなハクチョウなの?」 「そうよ。」 「どこに行くの?」 「シベリアやカラフトよ。」 「そこは遠いの?」 「遠いわよ。日本よりも寒いところよ。」 「寒いところに行くの?」 「そうよ。オオハクチョウは、寒いところが好きなの。でも寒すぎても駄目なの、だから寒すぎる冬には日本にやってくるのよ。」 「また戻って行くんだ。」 「そうよ。でもおかしいわねえ。まだ一月なのに…」 一平が答えた。 「暖冬で帰っちゃうんじゃあないんですか?」 「そうかも知れませんねえ、暖かい日が続いてますからねえ。」 スミレちゃんが質問した。 「いつもは、何月ごろに帰るの?」 「いつもだった、春の前の三月ごろかな。」 「やっぱり、これは、おんだんかってやつですね。」 「そうね…」 「きっとそうだわ。」 「渡り鳥も、きっと混乱してるんだわ。」 「人間のせいで、とっても可哀想ね。」 「そうね。」 「人間は、とっても悪いことしてるのね。」 「そうね。」 「でも、どうして、たくさんで飛ぶのかしら?」 「道に迷わないでしょう。それに、お互い守りあって飛んでいるのよ。」 「守りあって?」 「大鷲とか、怖い鳥たちがいるでしょう。」 「そうか。」 「弱いものは、集団で行動するの。」 「ふ〜〜ん。」 「羊みたいな弱い動物は、集団で生きているでしょう。」 「そうね。」 「ライオンみたいな強い動物は、集団では生きていないでしょう。」 「ライオンが、集団でいたら気持ち悪いわ。」 「そういうことなの。弱いものは集団で生きてるの。」 「人間も?」 「人間だって同じよ。弱い人間は、いつも集団で生きてるわ。一人では生きていけないわ。」 「ふ〜〜ん。」 「じゃあ、一人で生きている人間は強いんだね。」 「そうよ。昔の人は、自分だけの考えを持ってて、みんな強かったわ。」 一平が頷いた。 「そうですね。」 スミレちゃんは、再び姉さんに尋ねた。 「じゃあ、羊さんは仲がいいのね。」 「仲がいいんじゃないわ。お互い利用しているだけなの。」 「そうなの?」 「そうよ。だから、一匹が襲われて食べられると、他の羊は安心して逃げなくなるのよ。」 「そうなの〜〜!?」 「つまり、お互いに利用しあっているだけなの。」 一平も知らなかった。 「そうなんですか、随分ひどいなあ〜。」 「ひどくもなんともないわ。自然界では当然のことよ。そうやって生きてるの。」 「残酷だなあ〜。」 「残酷なんてことは、人間が勝手に解釈して、勝手に決めたことで、自然界では、そんなことは当たり前のことなの。人間のほうが残酷だわ。」 「えっ?」 「だって、遊びで狩をするじゃない。ライオンは、遊びで殺したりなんかしないわ。」 「そう言えば、そうですね。」 スミレちゃんが、大空に指差した。 「あっ、また来たわ!」 白い大きなオオハクチョウが、見事なV字型の編隊を組んで逞しく青い大空を飛んでいた。一平は、急いで携帯電話を取り出すと、鳥たちを撮りはじめた。渡り鳥に気づいた近くに居た人たちも、歓声をあげながら、同じように携帯電話のカメラで撮りはじめた。
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