20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:シュールミント 作者:毬藻

第103回   渡り鳥
澄み切った大空を渡り鳥が、集団で飛んでいた。スミレちゃんは楽しそうに、鳥たちを見た。
「わ〜〜、渡り鳥だわ〜!」
渡り鳥たちは、V字型の編隊飛行で飛んでいた。
「わ〜〜〜、きれいに飛んでるわ〜!」
一平も見ていた。
「なんだありゃあ、大きい鳥だなあ〜!凄いなあ〜!」
「どこに行くのかしら?」
姉さんが答えた。
「あれは、オオハクチョウだわ〜!」
スミレちゃんは、手を叩いて喜んでいた。
「大きなハクチョウなの?」
「そうよ。」
「どこに行くの?」
「シベリアやカラフトよ。」
「そこは遠いの?」
「遠いわよ。日本よりも寒いところよ。」
「寒いところに行くの?」
「そうよ。オオハクチョウは、寒いところが好きなの。でも寒すぎても駄目なの、だから寒すぎる冬には日本にやってくるのよ。」
「また戻って行くんだ。」
「そうよ。でもおかしいわねえ。まだ一月なのに…」
一平が答えた。
「暖冬で帰っちゃうんじゃあないんですか?」
「そうかも知れませんねえ、暖かい日が続いてますからねえ。」
スミレちゃんが質問した。
「いつもは、何月ごろに帰るの?」
「いつもだった、春の前の三月ごろかな。」
「やっぱり、これは、おんだんかってやつですね。」
「そうね…」
「きっとそうだわ。」
「渡り鳥も、きっと混乱してるんだわ。」
「人間のせいで、とっても可哀想ね。」
「そうね。」
「人間は、とっても悪いことしてるのね。」
「そうね。」
「でも、どうして、たくさんで飛ぶのかしら?」
「道に迷わないでしょう。それに、お互い守りあって飛んでいるのよ。」
「守りあって?」
「大鷲とか、怖い鳥たちがいるでしょう。」
「そうか。」
「弱いものは、集団で行動するの。」
「ふ〜〜ん。」
「羊みたいな弱い動物は、集団で生きているでしょう。」
「そうね。」
「ライオンみたいな強い動物は、集団では生きていないでしょう。」
「ライオンが、集団でいたら気持ち悪いわ。」
「そういうことなの。弱いものは集団で生きてるの。」
「人間も?」
「人間だって同じよ。弱い人間は、いつも集団で生きてるわ。一人では生きていけないわ。」
「ふ〜〜ん。」
「じゃあ、一人で生きている人間は強いんだね。」
「そうよ。昔の人は、自分だけの考えを持ってて、みんな強かったわ。」
一平が頷いた。
「そうですね。」
スミレちゃんは、再び姉さんに尋ねた。
「じゃあ、羊さんは仲がいいのね。」
「仲がいいんじゃないわ。お互い利用しているだけなの。」
「そうなの?」
「そうよ。だから、一匹が襲われて食べられると、他の羊は安心して逃げなくなるのよ。」
「そうなの〜〜!?」
「つまり、お互いに利用しあっているだけなの。」
一平も知らなかった。
「そうなんですか、随分ひどいなあ〜。」
「ひどくもなんともないわ。自然界では当然のことよ。そうやって生きてるの。」
「残酷だなあ〜。」
「残酷なんてことは、人間が勝手に解釈して、勝手に決めたことで、自然界では、そんなことは当たり前のことなの。人間のほうが残酷だわ。」
「えっ?」
「だって、遊びで狩をするじゃない。ライオンは、遊びで殺したりなんかしないわ。」
「そう言えば、そうですね。」
スミレちゃんが、大空に指差した。
「あっ、また来たわ!」
白い大きなオオハクチョウが、見事なV字型の編隊を組んで逞しく青い大空を飛んでいた。一平は、急いで携帯電話を取り出すと、鳥たちを撮りはじめた。渡り鳥に気づいた近くに居た人たちも、歓声をあげながら、同じように携帯電話のカメラで撮りはじめた。



← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 16821