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作品名:シュールミント 作者:毬藻

第102回   お年玉
買った物を精算すると、けんけん姉さんとスミレちゃんと一平は、スーパーの外に出た。買い物の半分は、一平が持っていた。
ソーラー屋根の駐輪場まで行くと、姉さんは自分のピンクの電動自転車の後部に取り付けた、インスタントの籠に入れた。網をかけた。
一平は、気が付いた。
「あれっ、この自転車、この前乗ってた自転車ですよね?」
「はい、そうです。」
「籠、付いてましたっけ?」
「いいえ。」
「ですよねえ?」
「この籠は、ワンタッチで付けられる籠なんです。」
姉さんは、後ろの籠の下のレバーを引いた。そして、籠には両サイドに持ち手が付いてて、それを軽く持ち上げた。
「いいでしょう?」
すぐに下ろして、レバーを元の位置に戻した。一平は納得した。
「わ〜〜、よく出来てるなあ〜、これも発明ですか?」
「これは違うわ。売ってる物。」
「そんなのが売ってるんだあ。」
あまり自転車に詳しくない一平には、生活の新たな発見だった。
「世の中は、刻一刻と変わっているんだなあ。」
スミレちゃんが、「ぼやぼやしてると、浦島太郎になっちゃいますよ。」と、聞こえるように言った。
「そうだねえ。」
一平は、自分が持っていた買い物の荷物を、スミレ号の前籠に入れた。
「じゃあ、行きましょう。」
姉さんが、軽く頷いた。風が、姉さんの髪を揺らしていた。
「行きましょう。」
「ちょっと、待って!」
スミレちゃんが、二人を止めた。けんけん姉さんは、自転車にまたがるのを止めて、スミレちゃんを見た。
「どうしたの?」
風が、少し強くなっていた。スミレちゃんは、上着の内ポケットから、一万円札を出した。両手で広げて見せた。
「これ、森の公園のホームレスのおじさんに、お年玉にもらったの。」
姉さんは、なぜか眉を寄せて叱った。
「駄目じゃない、スミレちゃん!こんなところで広げちゃあ!」
スミレちゃんは、驚いて目を丸くした。きょとんとして黙って姉さんを見ていた。風が吹いていた。
「この風で飛ばされて、ひらひらと蝶々のように飛んで行ってしまうでしょう!」
スミレちゃんは、今にも泣き出しそうな顔になった、急いで内ポケットにしまいこんだ。
「姉さん、変なこと言わないで〜〜!」
「金持ちのホームレスのおじさんにもらったのね?」
「そう…」
「分かったわ。後で礼を言っておくわ。」
「…びっくりした〜。」
「ちょっとかして。」
「お金?」
「そう。」
スミレちゃんは、一万円札を出して、手渡した。
「そんなところに入れておくと危ないわ。お金が可哀想でしょう?」
「お金が、かわいそう?」
「そうよ。そんなところに入れてたら、嫌がって、すぐに出て行ってしまうわ。」
「いやだ〜、そんなの。どうすればいいの?」
「ちょっと待ってて、小さくして入れ物に入れてくるから。」
そう言うと、姉さんはスーパーに戻って行った。五分ほどで帰ってきた。
「はい、お財布。中に、九千円入っているわ。」
姉さんは、手渡した。
「わ〜〜、すてきだわ〜!」
姉さんは、戒めるように言った。
「心が、ひらひらしていると、お金も、ひらひらと飛んでいくのよ。」
「は〜〜〜い!」
スミレちゃんは、財布の中を開けて覘いた。
「わ〜、一枚が九枚になってるわ〜〜!」
一平が口を挟んだ。
「千円だろう?」
「そうよ。わたし、この人のほうが好きだわ〜。いい顔してるわ〜。」
スミレちゃんは、上着の内ポケットから、お年玉に一平と龍次にもらった、五千円札を二枚出した。
「この女の人も入れておきましょう!ケンカをしないで仲良くしてね。」そう言うと、財布の中に丁寧にケンカをしないようにしまいこんだ。二人は、見守るように微笑んで見ていた。
「わ〜〜、金持ちになったわ〜〜!」
ひらひらと、チラシが風に舞っていた。スミレちゃんは、上着のポケットに丁寧に、財布を入れた。それから、二人を見て、にたっと笑った。


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