買った物を精算すると、けんけん姉さんとスミレちゃんと一平は、スーパーの外に出た。買い物の半分は、一平が持っていた。 ソーラー屋根の駐輪場まで行くと、姉さんは自分のピンクの電動自転車の後部に取り付けた、インスタントの籠に入れた。網をかけた。 一平は、気が付いた。 「あれっ、この自転車、この前乗ってた自転車ですよね?」 「はい、そうです。」 「籠、付いてましたっけ?」 「いいえ。」 「ですよねえ?」 「この籠は、ワンタッチで付けられる籠なんです。」 姉さんは、後ろの籠の下のレバーを引いた。そして、籠には両サイドに持ち手が付いてて、それを軽く持ち上げた。 「いいでしょう?」 すぐに下ろして、レバーを元の位置に戻した。一平は納得した。 「わ〜〜、よく出来てるなあ〜、これも発明ですか?」 「これは違うわ。売ってる物。」 「そんなのが売ってるんだあ。」 あまり自転車に詳しくない一平には、生活の新たな発見だった。 「世の中は、刻一刻と変わっているんだなあ。」 スミレちゃんが、「ぼやぼやしてると、浦島太郎になっちゃいますよ。」と、聞こえるように言った。 「そうだねえ。」 一平は、自分が持っていた買い物の荷物を、スミレ号の前籠に入れた。 「じゃあ、行きましょう。」 姉さんが、軽く頷いた。風が、姉さんの髪を揺らしていた。 「行きましょう。」 「ちょっと、待って!」 スミレちゃんが、二人を止めた。けんけん姉さんは、自転車にまたがるのを止めて、スミレちゃんを見た。 「どうしたの?」 風が、少し強くなっていた。スミレちゃんは、上着の内ポケットから、一万円札を出した。両手で広げて見せた。 「これ、森の公園のホームレスのおじさんに、お年玉にもらったの。」 姉さんは、なぜか眉を寄せて叱った。 「駄目じゃない、スミレちゃん!こんなところで広げちゃあ!」 スミレちゃんは、驚いて目を丸くした。きょとんとして黙って姉さんを見ていた。風が吹いていた。 「この風で飛ばされて、ひらひらと蝶々のように飛んで行ってしまうでしょう!」 スミレちゃんは、今にも泣き出しそうな顔になった、急いで内ポケットにしまいこんだ。 「姉さん、変なこと言わないで〜〜!」 「金持ちのホームレスのおじさんにもらったのね?」 「そう…」 「分かったわ。後で礼を言っておくわ。」 「…びっくりした〜。」 「ちょっとかして。」 「お金?」 「そう。」 スミレちゃんは、一万円札を出して、手渡した。 「そんなところに入れておくと危ないわ。お金が可哀想でしょう?」 「お金が、かわいそう?」 「そうよ。そんなところに入れてたら、嫌がって、すぐに出て行ってしまうわ。」 「いやだ〜、そんなの。どうすればいいの?」 「ちょっと待ってて、小さくして入れ物に入れてくるから。」 そう言うと、姉さんはスーパーに戻って行った。五分ほどで帰ってきた。 「はい、お財布。中に、九千円入っているわ。」 姉さんは、手渡した。 「わ〜〜、すてきだわ〜!」 姉さんは、戒めるように言った。 「心が、ひらひらしていると、お金も、ひらひらと飛んでいくのよ。」 「は〜〜〜い!」 スミレちゃんは、財布の中を開けて覘いた。 「わ〜、一枚が九枚になってるわ〜〜!」 一平が口を挟んだ。 「千円だろう?」 「そうよ。わたし、この人のほうが好きだわ〜。いい顔してるわ〜。」 スミレちゃんは、上着の内ポケットから、お年玉に一平と龍次にもらった、五千円札を二枚出した。 「この女の人も入れておきましょう!ケンカをしないで仲良くしてね。」そう言うと、財布の中に丁寧にケンカをしないようにしまいこんだ。二人は、見守るように微笑んで見ていた。 「わ〜〜、金持ちになったわ〜〜!」 ひらひらと、チラシが風に舞っていた。スミレちゃんは、上着のポケットに丁寧に、財布を入れた。それから、二人を見て、にたっと笑った。
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