「とってもとっても遠くの、燃えるように熱い国で、子供が泣いているわ。お腹が空いて眠れないと涙を流して泣いているわ。」 「…それは、きっとアフリカの国だよ。」 「ここには、たくさんの食べ物があるのに、不公平だわ。」 「そうだね。」 「こんなにあるのに、遠すぎて助けてあげられないわ。」 「そうだね。」 「飛行機で運べばいいのに。」 「アフリカは、飛行機でも遠すぎるんだよ。」 「そうかしら?」 「日本人も、その日暮らしで、よその国のことなんかを思いやる余裕がないんだよ。」 「そうかしら?」 「豊かでも、その日暮らしで、やっとなんだよ。」 「こんなにたくさん豊かなのに、とってもとっても、それは変なことだわ。」 「そうだねえ、変なことだね。」 期間限定アルバイトの若い女性の売り子が、期間限定の商品を売っていた。 「その日の暮らしが色で見える、とっても不思議な、その日グラスは如何ですか〜!」 スキレちゃんは、足を止めた。 「その日グラス?」 仕方なく、一平も足を止めた。二人は、そのグラスを眺めた。売り子が説明を始めた。 「その日の運勢が、色になって見える不思議なグラスでございます。」 運勢には、とってもとっても熱心なスミレちゃんの瞳は、きらっと光った。 「ほんとうに、色で分かるの?」 「はい。」 「ほんとうに、色が変わるの?」 「はい。」 「何色がいいの?」 「それは、あなただけが分かることなんです。人によって、いい色と悪い色は違うのです。」 「つまり、自分で決めることなんですね。」 「そうです。」 「どうやるの?」 「グラスを持ってください。」 売り子は、チューリップのようなグラスを手渡した。スミレちゃんは、黙って受け取った。売り子は、にやっと笑ってから話し出した。 「そのグラスを、軽く振ってください。」 スキレちゃんは、言われたとおりに軽く振った。青だったグラスの色が、赤くなった。スミレちゃんは驚いた。 「わ〜〜〜、どうなってるの!?」 「その色が、あなたの今日の運勢です。」 「赤は、わたしには、とってもとっても幸福の色だわ。」 「そうですか。おめでとうございます!」 スミレちゃんは、「どうもありがとう!」と言って、グラスを彼女に返した。彼女は、一平を見た。 「いかがですか?」 一平は断った。 「いいよ、僕は。」 スミレちゃんが、一平を睨んだ。 「ちょっとだけ、やってみてよ。」 一平は、「分かったよ!」と言って、グラスを取り軽く振った。グラスは、緑色に変わった。 「お〜〜、緑色になっちゃった。この色は、僕には物事を疑う色だ。」 一平は、苦笑してからグラスを返した。 「なかなか面白い仕掛けだね。」 「おひとつ、二千円です。いかがですか?」 「けっこうです。」 一平は歩き出した。スミレちゃんも歩き出した。少し向こうで、けんけん姉さんが、立ち止まって何かを見ていた。 「あっ、けんけん姉さんが、いつものように真剣な顔で、お肉と睨めっこをしているわ。」 一平は微笑んだ。 「面白いこと言うねえ〜。」 「殺された動物の肉は、食べられるために、一生懸命に生きているの。」 「えっ?」 「死んだ肉は食べられないわ。だから必死なの。」 「はっ?」 「ちょっと難しいかったかしら?」 スミレちゃんは、目玉を寄せていた。一平は、スミレちゃんの真似をして、目玉を寄せた。
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