ショーケンはしゃがみこみ、猫のタマを撫でていた。 クリスタル・ヨコタンは、ショーケンと猫を見ていたが、振り向くと、お兄ちゃんに尋ねた。 「パソコン、どこに運ぶの?」 「僕の部屋です。」 ショーケンが立ち上がった。 「よっし、俺が運ぶよ。」 ショーケンは、パソコン本体を持ち上げた。 「なんだ、軽いじゃん。どっち?」 お兄ちゃんが、ディスプレイを持つと、ヨコタンはルーターを持った。 「こっちです。」 真由美は、「パ〜ソコン、パ〜ソコン!」と言って踊りながら騒いでいた。 みんなは家の中に入って行った。 母親が、居間らしい部屋で正座をしてテレビを見ていた。家のなかは、都会の家と違って広かった。 「お母さん、パソコン持って来たよ。保土ヶ谷さんのところの人が手伝いに来たんだ。」 母親は、頭を下げた。 「わざわざ、すみませんねえ。」 ヨコタンが挨拶を返しながら返答した。 「はじめまして、ヨコタンと言います。すぐに終わります。」 「よろしくおねがいします。」 母親はショーケンに目が移った。 「あなた…」 軽く指をさした。 「ショーケンさん?」 ショーケンは、ちょっと間をおいて答えた。 「はい。」 「え〜〜〜、嘘〜〜〜!」 「ショーケンです。はじめまして。」 「え〜〜〜、嘘〜〜!」 「びっくりさせて、すみません。」 「そっくりさんなの?似てるわね〜〜。」 「そんなに似てます?」 「声や身振りまで、そっくり!?」 「なんだったら歌いましょうか?」 「え〜〜〜、どうなってるの?」 「リクエストありますか?」 「え〜〜〜ぇ、じゃあ、…一番有名な、テンプのお母さん、を歌ってくれます?」 「いいですよ。ちょっと待ってください。このパソコンを置いてきますから。」 ショーケンは、お兄ちゃんに尋ねた。 「どっち?」 「こっちです。」 ショーケンは直ぐに戻ってきた。 「じゃあ、ちょっとだけ歌います。」 少女は母親の隣にいて、何だろうという顔をして、きょとんとしていた。
いつまでぇも〜〜 いい子でいてね〜〜 ♪ たったぁ一言ぉ〜〜 いい子でいてぇね〜〜〜 ♪
「わ〜〜〜、ショーケンだわあ〜!」 母親は、目を潤ませ感激していた。 「あ〜〜、なんだか声が出ない。これで納得しました?」 「納得しました。」 「良かったぁ〜。」 「でも、どうしてこんなところに?」 「…ちょっと、高野山見物に遊びに来たんです。」 少女は不思議そうに母親を見ていた。 「この人、歌手なの?」 「そうよ。有名な、もてもてのアイドルだったのよ。」 「あいどる?」 「かわいこちゃんの、女の子にもてもての歌手。」 「かわいこちゃん?」 「若い頃は、とってもかわいかったのよ〜。子の人!」 「だから、かっこいいんだぁ〜。」 「そうでしょう。」 ショーケンは、眉間に皺を寄せていた。 「その、かわいこちゃんが嫌で、僕はアイドルをやめたんですよ。」 「そうなんですか。」 「いやでいやで…」 「だから、本物志向のロックに行ったんですね。」 「そういうことです。」 「お母さん。このかっこいい人、ショーケンって言うの?」 「そうよ。」 「ぅっわ〜〜、本物の歌手なんだ。かっこい〜〜ぃ!」
|
|