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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第95回   逆王手
「逆王手!」
紋次郎の目は冷たく青白く光っていた。
アキラは悲鳴をあげた。
「ぅっわ〜〜〜!なにこれ!?」
「逆王手です。」
「まいったなあ〜!」
「さて、どうしますか?」
「いやあ〜、勝ったと思ったんだけどなあ〜。そんな手があったのかよ〜。」
「どうしますか?」
「いっやあ〜〜、まいった!一気に一瞬にして、地獄行き。」
「油断大敵ですね。」
「こんなことってあるのかよ〜。」
「まるで、人生そのものですね。」
「将棋は人生だなあ〜!」
「そうですね。」
「やっぱり穴熊にしとけばよかったなあ〜。」
「そうですね。後の祭りですね。」
「後の祭りか…」
「戦う前に、王を逃がしておけばよかったなあ…」
「王の早逃げ八手の得って言いますね。」
「あっ、そう。」
「人生も同じです。どうしますか?アキラさん。」
「う〜〜〜ん、どうしよう…、受けと攻めが同時だからなあ…」
「そうですね。」
「受けだけでは、後手になって負けてしまうってことか…」
「そうですね。」
「一手待ってくんない?」
「そんなの駄目ですよ〜。将棋も人生も一回だけですよ。やり直しは絶対に出来ません。」
「人生じゃないんだからさあ。」
「おんなじです。将棋も人生も勝負です。一回こっきりです。」
「そうかよ。分かったよ。」
「人生に待ったがあったら、そこらじゅう混乱して大変なことになりますよ。」
「おまえ、何言ってんだよ?」
「もう終わりです。投了しますか?」
「とうりょう?」
「武士の世界だと、切腹です。」
「終わってないのに、なんで切腹しなきゃあいけないんだよ。」
「将棋も人生も、あきらめが肝心です。見苦しいです。」
「見苦しい?」
「はい。」
「まあだ終わりじゃないよ。」
「諦(あきら)めが悪いですねえ〜。」
「まだ終わってないって。」
「農民は、武士と違って諦めが悪いなあ。」
「農民!?」
紋次郎の目は青く冷たくルビーのように光っていた。
「おまえの目って、兄貴の目に似てるな〜…」
「えっ、そうですか?」
「冷たいところが。」
「わたしの目は、新型の省電力ですから熱くなったりはしませんよ。」
「でも、ちょっと違うな。」
「どこが違うんですか?」
「兄貴の目は、醒めてて殺気があるけど、おまえにはないよ。何もない。」
「何もない?」
「つまり、気持ちとか心がないってことだな。」
「そんなものありませんよ。ロボットですから。失礼しちゃうなあ。」
「失礼しちゃう?」
「当然のことを質問するなんて、失礼ですよ。」
「当然のこと?」
ロボットエンジニアの青年・伊賀十兵衛 は、その将棋を楽しそうに見ていた。
「まるで、沖縄交差式空手みたいですね。」
アキラが局面に悩みながら尋ねた。
「おきなわこうさしき空手?」
「沖縄空手は、受けと攻めが同時なんです。」
「ああ、そうなの。」
「そうなんです。」
「例えばどういうの?」
「例えば、アキラさんが右手で殴ってきたとすると、普通の空手だったら、まず左手で受けてから、右手か足で反撃します。」
「そうだね。知らないけど、たぶんそうじゃない。」
「沖縄空手は、同時に反撃するんですよ。」
「同時に?どうやって?」
「左手の肘で跳ね除けて、そのまま左手を伸ばして、相手の顎(あご)やコメカミを掌底(しょうてい)か拳(けん)で打撃するんです。」
「なるほどね。そういうのを、こうさしきって言うの?」
「そうです。カンフーなんかも同じです。」
「詳しいねえ。なんかやってたの?」
「伊賀流忍法を、ちょっと。」
「伊賀流忍法って、忍術のこと?」
「はい。」
「じゃあ、けっこうできるんだ?」
「はい。」
「そりゃあ凄いや。」
紋次郎の瞳孔が開いて、青年を見た。
「忍術でござるか?あっしにも、興味があるでござんす。」


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