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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第94回   兄弟
前から不気味なものが近づいてきた。ショーケンは驚いた。
「なんだありゃあ!?」
前照灯を光らせ、赤色灯を回転させながら、銀色の車体は徐々に近づいてきた。窓などはなかった。
クリスタル・ヨコタンは、いたって冷静だった。
「あれは、高野山パトロール隊の巡回威嚇ロボット・ゴン太です。」
「じゅんかいいかくロボット、ごんた?」
「夜になると、いろんな動物が山から出てくるので、威嚇して追い払っているのです。」
ゴン太は、「夜になると動物が出てきます。気をつけましょう。」とアナウンスしながら通り過ぎて行った。
「あれが、ロボット?」
「そうです。太鼓をゴンゴンと打ちながら追い払うのです。」
「だから、ゴン太って言うんだ。」
「そうです。」
「高野山も進んでるねえ。」
「きっと、弘法大師もびっくりしてますよね。」
「こうぼうだいし?」
「知らないんですか?」
「あ〜〜、知ってます、知ってます。もちろん知ってますよ〜!」
「でしょうね。日本人なら知ってますよね。教科書にも出てくるし。」
「そうですよ〜。常識ですよ。はっはっは。」
「良かった。ひょとしたら知らないんじゃないかと思って、びっくりしちゃった。」
「そんな馬鹿な。僕は日本人ですよ。はっはっは。」
「そうですよね。弘法筆を選ばずの弘法大師くらい知ってますよね。」
「あ〜〜、それ!そうだったんだ〜。」
「えっ?」
「いや、何でもありません。ちょっと疲れちゃって、頭がぼ〜〜っとしちゃって…」
「今日は、そんなに疲れたんですか?」
「はい。こういう仕事は慣れてないもんで。」
「そうですよねえ。ここに来る前は、本物のショーケンと同じように、やっぱりエンターティナーをやってたんでしょう?」
「ええ、そうなんですよ〜、路上で。」
「路上で、ですか?」
「いやいや…、路上と、言っても、あのう、歩行者天国ってところですよ〜!」
「あ〜〜、原宿とかですね?」
「そうそうそうそう!」
「路上って言えば、最近は路上ロボット泥棒っていうのがいるんですってねえ。指名手配になるとかで、テレビでやってましたよ。」
「そうなんですか。初耳だなあ〜!」
「主に政治犯を取り締まる、頭脳警察がやってるんですよ。」
「頭脳警察がですか…」
「人間よりもロボットのほうが守られているんですね。」
「そうだよね!変な世の中だよね。泥棒の気持ちも分かるなあ〜〜。」
「そうなんですか?」
「いや、ちょっとだけね。ほんのちょっと!」
「ショーケンさんは、心が広いんですねえ。」
まさとは、黙ってリアカーを引いていた。遠くの方から、少女の叫ぶ声が聞こえた。まさとの妹の真由美だった。
「お兄ちゃ〜ん!」
少女は駆けてやってきた。
「お兄ちゃん、パソコンもらえた〜?」
お兄ちゃんは、にこにこしながら返事をした。
「おらえたよ〜〜。」
「良かったねえ〜。」
少女は手を叩きながら踊りだした。
「パソコン、パソコン、パソコン♪」
「ご飯食べたのか?」
「お兄ちゃんが帰ってくるまで食べないって言ったでしょう。」
「しょうがないなあ。」
少女はクリスタル・ヨコタンを見た。
「わ〜〜〜、綺麗なお姉さん!」
それから、ショーケンを見た。
「わ〜〜〜、かっこいいお兄さん!」
ヨコタンが挨拶をした。
「はじめまして、わたしはヨコタン、よろしくね。」
「わたしは、真由美って言うの。」
「そう、いい名前ねえ。こちらの方は、ショーケンって言うのよ。」
「しょーけん?変わった名前ね。」
「そうね。ちょっと変わっているわね。」
「ほんとうの名前なの?」
少女はショーケンの顔を見た。ショーケンは答えた。
「ほんとうの名前はないんだよ。」
「ないの?」
ヨコタンは驚いた。
「ないんですか?」
「はい。」
「生まれた時からですか?」
「はい。」
ヨコタンは、ショーケンが双子でもそっくりさんでもなく、クローン人間だということを知っていた。
三毛猫のタマが、草むらから出てきた。ショーケンの足元に近づき、じゃれ始めた。
真由美ちゃんが不思議そうな顔をしていた。
「変だわ〜。タマが知らない人になつくなんて。」
ショーケンは懐かしい目で、タマを見ていた。タマは、にゃ〜んと鳴きながらじゃれていた。
真由美ちゃんは、それを見て微笑んだ。
「まるで、兄弟みたいだわ〜。」


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