前から不気味なものが近づいてきた。ショーケンは驚いた。 「なんだありゃあ!?」 前照灯を光らせ、赤色灯を回転させながら、銀色の車体は徐々に近づいてきた。窓などはなかった。 クリスタル・ヨコタンは、いたって冷静だった。 「あれは、高野山パトロール隊の巡回威嚇ロボット・ゴン太です。」 「じゅんかいいかくロボット、ごんた?」 「夜になると、いろんな動物が山から出てくるので、威嚇して追い払っているのです。」 ゴン太は、「夜になると動物が出てきます。気をつけましょう。」とアナウンスしながら通り過ぎて行った。 「あれが、ロボット?」 「そうです。太鼓をゴンゴンと打ちながら追い払うのです。」 「だから、ゴン太って言うんだ。」 「そうです。」 「高野山も進んでるねえ。」 「きっと、弘法大師もびっくりしてますよね。」 「こうぼうだいし?」 「知らないんですか?」 「あ〜〜、知ってます、知ってます。もちろん知ってますよ〜!」 「でしょうね。日本人なら知ってますよね。教科書にも出てくるし。」 「そうですよ〜。常識ですよ。はっはっは。」 「良かった。ひょとしたら知らないんじゃないかと思って、びっくりしちゃった。」 「そんな馬鹿な。僕は日本人ですよ。はっはっは。」 「そうですよね。弘法筆を選ばずの弘法大師くらい知ってますよね。」 「あ〜〜、それ!そうだったんだ〜。」 「えっ?」 「いや、何でもありません。ちょっと疲れちゃって、頭がぼ〜〜っとしちゃって…」 「今日は、そんなに疲れたんですか?」 「はい。こういう仕事は慣れてないもんで。」 「そうですよねえ。ここに来る前は、本物のショーケンと同じように、やっぱりエンターティナーをやってたんでしょう?」 「ええ、そうなんですよ〜、路上で。」 「路上で、ですか?」 「いやいや…、路上と、言っても、あのう、歩行者天国ってところですよ〜!」 「あ〜〜、原宿とかですね?」 「そうそうそうそう!」 「路上って言えば、最近は路上ロボット泥棒っていうのがいるんですってねえ。指名手配になるとかで、テレビでやってましたよ。」 「そうなんですか。初耳だなあ〜!」 「主に政治犯を取り締まる、頭脳警察がやってるんですよ。」 「頭脳警察がですか…」 「人間よりもロボットのほうが守られているんですね。」 「そうだよね!変な世の中だよね。泥棒の気持ちも分かるなあ〜〜。」 「そうなんですか?」 「いや、ちょっとだけね。ほんのちょっと!」 「ショーケンさんは、心が広いんですねえ。」 まさとは、黙ってリアカーを引いていた。遠くの方から、少女の叫ぶ声が聞こえた。まさとの妹の真由美だった。 「お兄ちゃ〜ん!」 少女は駆けてやってきた。 「お兄ちゃん、パソコンもらえた〜?」 お兄ちゃんは、にこにこしながら返事をした。 「おらえたよ〜〜。」 「良かったねえ〜。」 少女は手を叩きながら踊りだした。 「パソコン、パソコン、パソコン♪」 「ご飯食べたのか?」 「お兄ちゃんが帰ってくるまで食べないって言ったでしょう。」 「しょうがないなあ。」 少女はクリスタル・ヨコタンを見た。 「わ〜〜〜、綺麗なお姉さん!」 それから、ショーケンを見た。 「わ〜〜〜、かっこいいお兄さん!」 ヨコタンが挨拶をした。 「はじめまして、わたしはヨコタン、よろしくね。」 「わたしは、真由美って言うの。」 「そう、いい名前ねえ。こちらの方は、ショーケンって言うのよ。」 「しょーけん?変わった名前ね。」 「そうね。ちょっと変わっているわね。」 「ほんとうの名前なの?」 少女はショーケンの顔を見た。ショーケンは答えた。 「ほんとうの名前はないんだよ。」 「ないの?」 ヨコタンは驚いた。 「ないんですか?」 「はい。」 「生まれた時からですか?」 「はい。」 ヨコタンは、ショーケンが双子でもそっくりさんでもなく、クローン人間だということを知っていた。 三毛猫のタマが、草むらから出てきた。ショーケンの足元に近づき、じゃれ始めた。 真由美ちゃんが不思議そうな顔をしていた。 「変だわ〜。タマが知らない人になつくなんて。」 ショーケンは懐かしい目で、タマを見ていた。タマは、にゃ〜んと鳴きながらじゃれていた。 真由美ちゃんは、それを見て微笑んだ。 「まるで、兄弟みたいだわ〜。」
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