女性隊員は、なかなか返事が返ってこないので、頬杖をついていた。 「何て書きましょうか?」 「そうだなあ…」 「不満をそのまま書けばいいんじゃないですか?…匿名で。」 「そうだな。」 「何て書きましょう?」 「拝啓…」 「はいけい?手紙じゃありませんよ。」 「あっ、そうか。こういうの書いたことないからなあ。」 「ブログもやったことないんですか?」 「ああ、ないよ。そんなもの。」 「手紙じゃないんだから、話すように書けばいいんですよ。」 「ああ、そうなの。じゃあ…」 「はい、どうぞ。」 忍が横から口を出した。 「俺が言うよ。いいでしょう龍次さん?」 「ああ、いいよ。」 「じゃあ、言ったように書いて。」 「はい。」 「mp3ファイルを、いちいちダウンロードするのは面倒です。案山子本体の中に入れておいてください。」 「はい。」 「それから、強風で落ちたものは自動で元に戻るんですか?」 「はい、書きました。」 「この性能で五千円は、ちょっと高いです。」 「はい。」 「それでいいよ。」 「はい。送信!」 「書けた?」 「ちゃんと書けました。」 龍次は、吠太郎を見ていた。 「試作品じゃないものを買おうと思っていたけど、止めたよ。」 彼女が立ち上がった。 「もういいですか?まだ仕事があるもので。」 「いいよ。ありがとう。」 彼女は隣の部屋に戻って行った。 「じゃあ、コーヒーでも飲むか…、忍くんも飲むかい?」 「わたしはいいです。」 「あっ、そう。」 「ダウンロードしたものを、案山子に取り込むにはどうするんだろうなあ?龍次さん知ってる?」 「取り込む?さぁ〜〜〜あ。」 「駄目だあ〜、こりゃあ。」 忍は彼女を呼んだ。 「サキちゃ〜〜〜ん!」 サキちゃんが出てきた。 「何ですか?」 龍次は知らん顔して、台所の方に引っ込んだ。 「あれえ、龍次さん行っちゃった。」 「何ですか?何か御用でしょうか?」 「さっきダウンロードしたでしょう。」 「はい。」 「あれを、この案山子に入れるにはどうしたらいいの?」 「簡単です。USBケーブルで繋げばいいんですよ。」 「それだけ?」 「それから、ファイルを案山子に移すんです。」 「どうやって?」 「やったことありませんか?」 「ない。」 「じゃあ、わたしがやります。よく見ててください。」 「よく見とくよ!」 サキちゃんは、USBケーブルをパソコンに差し込んだ。片一方の端子を忍に渡した。 「それを、案山子の背後の端子に差し込んでください。」 「う〜〜〜んっと、…無いよ、そんなもの。」 「たぶん、ビニールの端子カバーがついています。」 「あ〜〜、これだ!分かった!これを外すんだね?」 「はい。」 「それに繋いでください。」 「はい、繋いだ。」 「エクスプローラを開いて、案山子の中のファイルを削除します。」 「エクスプローラ?」 「ファイル管理ソフトです。」 「ふ〜〜〜ん…」 「右クリックで削除できます。」 「なるほど…」 「それから、マイドキュメントに移動して、ダウンロードしたファイルを、案山子に移します。」 「移す…」 「こうやってね。コピー、そして貼り付け。」 「なるほど〜〜!」 「分かった?」 「なんとなく分かったけど、たぶん忘れるな。」 「な〜〜んだ、せっかく解説したのに。」 「また頼むよ。お願い!」 「しょうがないわねえ。」 龍次が、コーヒーカップを右手で持ちながらやってきた。 「どう、分かった?」 「分かりました。」 彼女は立ち上がった。 「後は、やってください。」 忍は親指を立てた。 「ありがとう!」 「でも、入ってるかどうか、やってみないと分からないわよ。ダウンロードしたファイルが壊れてるかも知れないし。」 「そんなこともあるの?」 「よくあります。」 忍はスイッチを入れた。 ウ〜〜〜〜 ウ〜〜〜〜 ! 「おお、いいねえ。」 忍はスイッチを切った。 「これで大丈夫!」 龍次が忍に尋ねた。 「これで、ほんとうに熊が逃げるの?」 「たぶん。」 「忍くんのラップのほうが効果あるんじゃないの?」 「どぉういう意味ですか?」
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