龍次は、ショーケンたちを見送った後、部屋に戻ってきた。 甲賀忍は、まだ検索をやっていた。 「まだ見つからないの?」 「ええ、ありませんねえ…」 「検索が下手なんじゃないの?」 「上手下手ってあるんですか?」 「あるよ。サキちゃんは上手いよ。サキちゃ〜〜ん!」 さっきの女性隊員が、事務室から出てきた。 「ちょっと検索してくれない。」 「はい。」 忍が、「じゃあ頼むよ。」と言って席を譲った。彼女は座った。 「何を検索すればいいんですか?」 忍が答えた。 「吠太郎の説明書なんだけど…」 「ほえたろう?」 「犬が吠えるで、太郎。」 サキは、検索窓にタイプした。 「こうですか?」 「そうそう!」 彼女は検索を始めた。 「おっかしいなあ…、出ないなあ〜?」 「でしょう!」 「それ案山子(かかし)ですよね?」 「そう、ハイテク案山子(かかし)。」 彼女は、言葉を付け加えて、検索を再度始めた。 忍は時間が掛かると思って、壁に立てかけてあった吠太郎を、テーブルの上に乗せ、調べはじめた。 彼女がマウスを止めた。 「はい、出ました。」 「え〜〜、もう出たの?あったの?」 「ありました。」 「どうやって検索したの?」 「忍さん、吠太郎の説明書とか、吠太郎スペース説明書とかで検索したでしょう?」 「ああ。」 「それじゃあ、出ないでしょうね。」 「だって、説明書じゃなくって、マニュアルになってるもん。」 「それで出ないの?」 「そうです。意味は同じでも、そういう字がないと出ないんですよ。」 「そうか…」 「それに、吠太郎だけよりも、ハイテク案山子、吠太郎ってやったほうがいいですよ。」 「それが検索のテクニック?」 「そうです。」 「ややこしいんだねえ。」 「上手い人と、下手な人がいるんですよ。やれば上手くなります。」 「何事も、訓練訓練ってことか。」 「はい、そうです。検索は連想ゲームですよ。」 龍次は、いつの間にか彼女の横に来ていた。 「仕事には、簡単なものはないってことだね。」 「そういうことですね。」 忍は、口を噤(つぐ)んでいた。 龍次は画面を覗いた。 「どれどれ…」 忍も覗き込んだ。 「スイッチ以外のこと書いてあるかなあ?」 サキが画面を見ながら返事をした。 「書いてあります。」 「何て書いてある?」 「背中のUSB端子をパソコンに繋いで、音ファイルを交換してください。音ファイルは以下にあります。ダウンロードしてください。mp3ファイルだったら、何でも構いません。」 「えっ、どういうこと?」 「つまり、ダウンロードしなければいけないってことです。」 「何でも構いませんって、俺の音楽でもいいわけだ?」 「そういうことですね。」 龍次が画面を睨んだ。 「サイレン音とかはあるの?」 「あります。三つあります。視聴できます。」 「じゃあ、視聴してみよう。」 彼女は、視聴ボタンを3回クリックした。 龍次が忍に聞いた。 「どう?」 「2番目がいいけど、全部ダウンロードしといてよ、サキちゃん。」 「はい。」 サキちゃんは、言われたままに素直にクリックしてダウンロードした。 龍次がぼやいた。 「なんだか不便だなあ。このハイテク案山子(かかし)。ちっともハイテクじゃないじゃないか。」 忍も、その意見に同意した。 「そうですよねえ。音変えるだけなのにパソコンに繋いで、不便ですよねえ。」 「同じ名前だから買ってやったんだよ。試作品モニター販売で、三千円で安かったんだけどね。」 サキちゃんが吠太郎のページを表示した。 「今は五千円になってます。」 「え〜〜〜、五千円もするの?こんなものが?」 忍も画面を睨んでいた。 「試作品とどっか、違うのかなあ?」 「そうですねえ…」 「なんか、違いが分からないんだけど…」 「そうですねえ…、あっ、ありました!試作品との違いは、強風対策雨防水って書いてあります。」 「…強風対策雨防水?」 「強風のときには、本体が下に落ちるんだそうです。」 「ふ〜〜ん。それで、風が止んだらどうなるの?自分で元の位置に上がるの?」 「…書いてありません。」 「な〜〜んだよ。肝心なところを。まさか手でやるんじゃないだろうね?」 「そうかも知れませんよ。」 龍次が突っ込んだ。 「そうだよ。手でやるんだよ。だから何も書いてないんだよ。自動だったら、ちゃんと大きく表示するよ。」 「そうですよね。」 「なあんだ、やっぱりセコいハイテクだなあ〜。」 龍次は、口を尖らせていた。 「だったら、五千円は高いなあ。わたしと同じ名前なんだけど、どういう顔してるんだ?」 「あっ、こっちにブログがあります。見ますか?」 「見てみよう。」 「この方です。横浜の方です。」 「どれどれ…、僕とはあまり似てないねえ。…良かった!」 「そうですねえ。」 「最近の書き込みがあります。」 「読んでみてよ。」 「ハハハハ、ぼくのブログは廃墟か!ここ一週間だれも振り向いてくれないよ、えええぇぇ〜〜ん!」 「なかなかやるなあ。」 「何がですか?」 「こうやって、母性本能をくすぐっているんだよ。」 「そうですかねえ?本音なんじゃないですか?」 「本音じゃないよ。看板だよ。」 「看板?」 「来たついでに、何か書いてやろう。ゲストブックとかないの?」 「ブロブに、そのまま返信できます。」 「じゃあ、そこでいいや。」 「何て書きますか?」 「そうだなあ・・」 彼女の左脇には、忍がいた。 「クレームを書けばいいんじゃない?」 「そうだね。そうしよう。」 「あっ、誰かクレームみたいなのが書いてありますよ。」 「何て書いてあるの?」 「吠太郎使用者のものですが、説明書が分かりにくいし〜〜、センスがダサイです。なんとかしてください。自然薯(じねんじょ)を売ったほうがいいんじゃないかな〜〜。」 「な〜〜んだか、クレームが具体的じゃなくって、センスの悪い文章だなあ。ちなみに何て言う人のクレーム?」 「きょん姉と書いてあります。」 「きょん姉!?」 「知ってるんですか?」 「いや、前に同じ名前の部下がいたんだよ。まさかね、そんなはずはないよ。」 「ここに、書き込みますか?」 「ちょっと待って、今考えてるから…」
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