案山子(かかし)の吠太郎を抱えて、甲賀忍が入って来た。 「保土ヶ谷さん。これ、音を変える方法が分かりません。」 龍次はが手招きをした。 「ちょっと持ってきてよ。」 面倒くさそうな口調だった。 「音を変えるって、後ろにスイッチがあるんじゃないの?」 「それがないんです。オンとオフのスイッチだけなんです。」 「どれどれ…」 龍次は、案山子の吠太郎の背後を見た。 「ほんとだねえ…」 「説明書には、確か音をサイレン音に変えたり、録音できたりと書いてあったような記憶があるんですけど。」 「あっ、説明書か。」 「ありますか?」 「ちょっと待って!」 龍次は、整理棚の引き出しを調べた。 「おっかしいなあ…」 「あっ、わたしが探します。」 「いいよ、いいよ。」 「…」 「おっかしいなあ、ないなあ。」 「分かりました。なんとかします。」 忍は、吠太郎を抱えて出て行こうとした。 「ちょっと待って、君パソコンで検索できるよね。」 「はい。検索くらいでしたら。」 「じゃあ、そこの新しいパソコンで検索してよ。インターネットで取り寄せたんだから説明書くらい出てくるよ。」 「ああそうですね。」 忍は、新しいパソコンの前に座った。慣れない手つきで検索を始めた。 「あっ、そうだそうだ。」 龍次は、古いパソコンを指差した。 「これこれ、まさと君、これ!」 まさとを手招きして呼んだ。まさとは、すたすたとやって来た。 「これですか。まだいいパソコンですねえ。」 「まだ、ちゃんと動くよ。お〜〜い、誰かいないか!」 「隣の事務室から女性の隊員が一人出てきた。」 「はい、何でしょうか?」 「男の人がいいなあ。いる?」 「います。呼んできます。」 代わりに、男の隊員が一人出てきた。 「何か?」 「これを、リアカーに積んでくれない。」 「はい。」 まさとが出てきた。 「僕も運びます。」 「リアカーはどこ?」 「入り口の前です。」 「じゃあ、このディスプレイ持って行って。」 「はい。」 ディスプレイを外すと、男の隊員がパソコン本体とキイボードとマウスを持って行った。 まさとがディスプレイを持って運んだ。まさとと隊員は直ぐに戻ってきた。 まさとが龍次に頭を下げて礼を言った。 「じゃあ遠慮なく、待っていきます。」 龍次は、出て行こうとしたまさとを呼び止めた。 「ちょっと、待って!」 まさとは振り向いた。 「はい、何でしょうか?」 「ルーターがいるんだ。」 「ルーター?」 「インターネットと繋ぐやつ。」 「ああ、そうなんですか。」 龍次が、みんなに尋ねた。 「誰か、ルーター知らない?」 ワンピース姿のクリスタル・ヨコタンが微笑みながら答えた。 「ルーターは、新しいパソコンに接続されてます。」 龍次は、新しいパソコンを見た。ルーターが横にあった。 「あっ、そうか。」 「使ってないルーターなら、棚にあります。」 ヨコタンは、棚の上のルーターを指差した。 「あれです。」 龍次は、彼女の指差す方向を見た。 「あれ、使えるよね。」 「はい、使えます。」 男の隊員が取りに行った。そして、龍次に渡した。 「ほこりをかぶっているけど、だいじょうぶみたいだね。」 ヨコタンが念を押した。 「大丈夫です。」 龍次は、男の隊員に尋ねた。 「君、ルーターとかパソコンの設定できるよね?」 「わたしはちょっと…」 「できないか?…誰かいないかな。」 ヨコタンが返事をした。 「わたしが行きます。」 「えっ、行ってくれる?」 「はい。」 まさとが、心配そうな顔で龍次に尋ねた。 「あのう、インターネットの接続料金って高いんですか?」 龍次が返答した。 「大丈夫。高野山プロバイダーを使えば、独自のサーバーだから格安になってるよ。」 「いくらくらいなんですか?」 「そうだ、収入の少ない家庭は無料なんだよ。だから大丈夫だよ。」 「え〜〜、そうなんですか?」 彼女が答えた。 「そうですね。」 「ヨコタン、ついでに手続きも頼むよ。」 「はい。」 ヨコタンがやってきて、まさとの顔を見た。 「じゃあ、行きましょう。」 龍次が心配して彼女の顔を見た。 「帰り、ひとりで大丈夫かな?君は美人だから」 「大丈夫ですよ。近くですから。」 「けっこうあるよ。」 ショーケンが出てきた。 「僕が、僕が行きますよ。一緒に。」 龍次は戸惑った。 「ショーケンさんはゲストですから。誰か、いないのか〜!」 「大丈夫です!まかしといて!」 クールなショーケンが、なぜか情熱的に微笑んで、うきうきとしていた。
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