集会所の中心には、ショーケンがいた。ショーケンの横にはワンピース姿の綺麗な女性がいた。 「食堂のご飯、やけに美味しかったけど、どこのお米なの?」 彼女は母親のように優しく答えた。 「あれ、私たちが作っているお米なんです。」 「君たちは、米も作っているの?」 「はい、農薬を使わないで作っているんです。」 「農薬を、まったく使わないで作ってるの?」 「はい、除草剤などは使っていません。」 「使わないと、美味しくなるんだ?」 「はい、農薬が入ってないので、ぜんぜん美味しくなります。」 「ぜんぜん美味しいって、君、その言い方は、ひょっとして横浜?」 「そうです。横浜の緑区です。」 「なんだか、とにかく美味しかったよ。あれは、おかずなしでも食べられるね。」 「おにぎりにすると、とても美味しいですよ。」 「そうだろうね。でも、農薬使わないと大変でしょう。雑草が生えてきて。」 「そうなんです。収穫までは、中腰で草取りなんですよ。」 「一本一本抜いていくんだ?」 「そうなんです。」 「そりゃあ、大変だ。」 「大変なんですけど、ドジョウとかもいて楽しいんですよ。」 「でも、それは大変だねえ。」 「来年から、カルガモロボットを増やすので楽になるんです。」 「カルガモロボット?」 「電波を充電して動く草取りロボットなんです。」 「電波で充電?の、草取りロボット?」 「電波って言っても、電力電波なんです。その電波を受け取って充電して動くんです。」 「えっ?電気を飛ばすの?」 「はい。」 「聞いたことないなあ〜。」 「まだ少ないですね。」 「へ〜〜え?」 「ロボットなので、本物のカルガモも近寄りません。カエルなんかも逃げて行きます。」 「あ〜〜、そう。それ、誰が作ったの?」 「わたしです。」 「あなたが?」 「電子工学が専門なんです。」 「あ〜〜、そうなんだ。利口そうな顔してるもん。」 「そうですか?」 「でも、どうやって、雑草と稲を見分けるわけ?」 「そこのところは、企業秘密です。特許に触れますので。」 「そういうことか。」 龍次が入って来た。 「ヨコタン、何話してるの?」 「カルガモロボットのことです。」 龍次がショーケンに彼女を紹介した。 「彼女は、以前に宇宙工学研究所にいたんですよ。愛称クリスタル・ヨコタン。」 彼女はペコリと頭を下げた。 「クリスタル・ヨコタンです。よろしくおねがいします。クリスタルでも、ヨコタンでいいです。」 「クリスタル・ヨコタン…、そういえば、フランス語の話せるアナウンサーに似てますねえ。」 「みんなそう言います。わたしが彼女に似てるんじゃなくって、彼女がわたしに似てるんですよ。」 「なるほど!それっていいなあ。タレントに向いてるセリフだなあ。」 「タレントに向いてますか?」 「うん、いいよ。ポジティブでナイスだよ。」 「そうかなあ?」 「あっ、そう。わたしは、ショーケン。」 「知ってますよ。有名人ですから。」 「ああ、そう。」 「ロックのカリスマ・萩原健一。ロックの好きな人だったら誰でも知ってますよ。」 「俳優だと思ってる人が多いんだよね。」 「そういう人は、人を見るセンスがないんですよ。ロックが分からないんんですよ。」 「まあね。」 彼女は、ネックレスタイプのmp3プレーヤを、少し膨れた胸のポケットから出して、ショーケンに見せた。 「なに、これ?」 「思い出のmp3プレーヤです。」 「しゃれたプレーヤだねえ。どこで売ってるの?」 「インターネットのラクラクテンテンです。」 「ちょっと聞かせて。」 「どうぞ。」 ショーケンは、イヤホンを両方の耳にあてた。慌てて彼女が助言した。 「あっ、こっちが右です。Rって書いてあるほうが。」 「あっ、そう。」 彼女のしなやかな指がショーケンの頬に触れた。ショーケンはぞくぞくっとして、思わず身をすくめた。イヤホンがショーケンの股間に落ちた。 「あら、ごめんなさい!」 彼女のしなやかな指が、ショーケンの股間をまさぐった。イヤホンは股間の奥にあった。彼女の指はさらにまさぐった。彼女の長くキューティクルな髪が、ショーケンの鼻に当たった。 「あら、ごめんなさい!」 甘いフルーティなシャンプーの香りが、ショーケンの冷めた煩悩(ぼんのう)を揺さぶった。 思わず股間が膨れそうになったので、ショーケンは腰を引いた。彼女はびっくりした。 「どうしたんですか?」 「いや、なんでもないんです。」 彼女は、股間からイヤホンを取ると、しなやかな手つきでイヤホンを付け替えた。ショーケンは、膨張してるものを左手で気づかれないように押さえた。 「はい。」 「…あっ、ショーケンの曲と歌だ。」 股間は、まだ膨れていた。彼女はショーケンのタイプだった。 ちょっと聞くと、ショーケンは耳から外した。 「これ、電池は?」 「USBから充電です。」 「へ〜〜〜ぇ。」 股間がばれないように、ショーケンはテーブルの前の椅子に座り直した。 「これでよしっと。」 「えっ?」 「いや、こっちのはなし。」 「萩原さんのシャウトには、不屈のロック魂があります。」 「不屈のロック魂…」 「はい。つまり、平凡ではない不屈の魂です。」 「なるほど!」 ショーケンは不屈のロック魂で、左手で強く股間を押さえ込んだ。 「このやろう!」 「えっ、なんですか?」 「いや、なんでもないです。」 「人間は、強く意識しないと、平凡に負けてしまいます。」 「うん、なるほどね。そうかも知れないな。このやろう!」 ショーケンは、強く意識して押さえ込んだ。 「どうしたんですか?」 「なんだか嬉しくなってきちゃった。でも、おだてには乗らないよ。」 「そこがまた、ロックですね。魂は熱いけれども、心は常に冷静沈着。獲物をねらうライオンのように。」 「なかなか的確だなあ。」 「わたしは、あなたに不屈のロック魂を教わりました。ありがとうございます。」 「えっ、そうなの?」 「わたしが、ここにあるのは、あなたのおかげです。」 「え〜〜〜、そうなの!」 「あなたの歌や叫びで、自分を変えて人生に戦う人間にすることができたんです。」 「え〜〜っ、でも僕は偽者だよ。コピー。」 「知ってます。でも、そんなことはどうでもいいんです。」 「どうでもいい…」 「はい。ここに意識として在ることが重要なんです。」 「ここに意識として在る…、なんだか話が難しくなってきたな〜。さすがインテリ!」 「実在よりも、実存のほうが重要なんです。」 「じつぞん…」 龍次は、二人の会話を聞いているだけだった。
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