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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第90回   不屈のロック魂
集会所の中心には、ショーケンがいた。ショーケンの横にはワンピース姿の綺麗な女性がいた。
「食堂のご飯、やけに美味しかったけど、どこのお米なの?」
彼女は母親のように優しく答えた。
「あれ、私たちが作っているお米なんです。」
「君たちは、米も作っているの?」
「はい、農薬を使わないで作っているんです。」
「農薬を、まったく使わないで作ってるの?」
「はい、除草剤などは使っていません。」
「使わないと、美味しくなるんだ?」
「はい、農薬が入ってないので、ぜんぜん美味しくなります。」
「ぜんぜん美味しいって、君、その言い方は、ひょっとして横浜?」
「そうです。横浜の緑区です。」
「なんだか、とにかく美味しかったよ。あれは、おかずなしでも食べられるね。」
「おにぎりにすると、とても美味しいですよ。」
「そうだろうね。でも、農薬使わないと大変でしょう。雑草が生えてきて。」
「そうなんです。収穫までは、中腰で草取りなんですよ。」
「一本一本抜いていくんだ?」
「そうなんです。」
「そりゃあ、大変だ。」
「大変なんですけど、ドジョウとかもいて楽しいんですよ。」
「でも、それは大変だねえ。」
「来年から、カルガモロボットを増やすので楽になるんです。」
「カルガモロボット?」
「電波を充電して動く草取りロボットなんです。」
「電波で充電?の、草取りロボット?」
「電波って言っても、電力電波なんです。その電波を受け取って充電して動くんです。」
「えっ?電気を飛ばすの?」
「はい。」
「聞いたことないなあ〜。」
「まだ少ないですね。」
「へ〜〜え?」
「ロボットなので、本物のカルガモも近寄りません。カエルなんかも逃げて行きます。」
「あ〜〜、そう。それ、誰が作ったの?」
「わたしです。」
「あなたが?」
「電子工学が専門なんです。」
「あ〜〜、そうなんだ。利口そうな顔してるもん。」
「そうですか?」
「でも、どうやって、雑草と稲を見分けるわけ?」
「そこのところは、企業秘密です。特許に触れますので。」
「そういうことか。」
龍次が入って来た。
「ヨコタン、何話してるの?」
「カルガモロボットのことです。」
龍次がショーケンに彼女を紹介した。
「彼女は、以前に宇宙工学研究所にいたんですよ。愛称クリスタル・ヨコタン。」
彼女はペコリと頭を下げた。
「クリスタル・ヨコタンです。よろしくおねがいします。クリスタルでも、ヨコタンでいいです。」
「クリスタル・ヨコタン…、そういえば、フランス語の話せるアナウンサーに似てますねえ。」
「みんなそう言います。わたしが彼女に似てるんじゃなくって、彼女がわたしに似てるんですよ。」
「なるほど!それっていいなあ。タレントに向いてるセリフだなあ。」
「タレントに向いてますか?」
「うん、いいよ。ポジティブでナイスだよ。」
「そうかなあ?」
「あっ、そう。わたしは、ショーケン。」
「知ってますよ。有名人ですから。」
「ああ、そう。」
「ロックのカリスマ・萩原健一。ロックの好きな人だったら誰でも知ってますよ。」
「俳優だと思ってる人が多いんだよね。」
「そういう人は、人を見るセンスがないんですよ。ロックが分からないんんですよ。」
「まあね。」
彼女は、ネックレスタイプのmp3プレーヤを、少し膨れた胸のポケットから出して、ショーケンに見せた。
「なに、これ?」
「思い出のmp3プレーヤです。」
「しゃれたプレーヤだねえ。どこで売ってるの?」
「インターネットのラクラクテンテンです。」
「ちょっと聞かせて。」
「どうぞ。」
ショーケンは、イヤホンを両方の耳にあてた。慌てて彼女が助言した。
「あっ、こっちが右です。Rって書いてあるほうが。」
「あっ、そう。」
彼女のしなやかな指がショーケンの頬に触れた。ショーケンはぞくぞくっとして、思わず身をすくめた。イヤホンがショーケンの股間に落ちた。
「あら、ごめんなさい!」
彼女のしなやかな指が、ショーケンの股間をまさぐった。イヤホンは股間の奥にあった。彼女の指はさらにまさぐった。彼女の長くキューティクルな髪が、ショーケンの鼻に当たった。
「あら、ごめんなさい!」
甘いフルーティなシャンプーの香りが、ショーケンの冷めた煩悩(ぼんのう)を揺さぶった。
思わず股間が膨れそうになったので、ショーケンは腰を引いた。彼女はびっくりした。
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもないんです。」
彼女は、股間からイヤホンを取ると、しなやかな手つきでイヤホンを付け替えた。ショーケンは、膨張してるものを左手で気づかれないように押さえた。
「はい。」
「…あっ、ショーケンの曲と歌だ。」
股間は、まだ膨れていた。彼女はショーケンのタイプだった。
ちょっと聞くと、ショーケンは耳から外した。
「これ、電池は?」
「USBから充電です。」
「へ〜〜〜ぇ。」
股間がばれないように、ショーケンはテーブルの前の椅子に座り直した。
「これでよしっと。」
「えっ?」
「いや、こっちのはなし。」
「萩原さんのシャウトには、不屈のロック魂があります。」
「不屈のロック魂…」
「はい。つまり、平凡ではない不屈の魂です。」
「なるほど!」
ショーケンは不屈のロック魂で、左手で強く股間を押さえ込んだ。
「このやろう!」
「えっ、なんですか?」
「いや、なんでもないです。」
「人間は、強く意識しないと、平凡に負けてしまいます。」
「うん、なるほどね。そうかも知れないな。このやろう!」
ショーケンは、強く意識して押さえ込んだ。
「どうしたんですか?」
「なんだか嬉しくなってきちゃった。でも、おだてには乗らないよ。」
「そこがまた、ロックですね。魂は熱いけれども、心は常に冷静沈着。獲物をねらうライオンのように。」
「なかなか的確だなあ。」
「わたしは、あなたに不屈のロック魂を教わりました。ありがとうございます。」
「えっ、そうなの?」
「わたしが、ここにあるのは、あなたのおかげです。」
「え〜〜〜、そうなの!」
「あなたの歌や叫びで、自分を変えて人生に戦う人間にすることができたんです。」
「え〜〜っ、でも僕は偽者だよ。コピー。」
「知ってます。でも、そんなことはどうでもいいんです。」
「どうでもいい…」
「はい。ここに意識として在ることが重要なんです。」
「ここに意識として在る…、なんだか話が難しくなってきたな〜。さすがインテリ!」
「実在よりも、実存のほうが重要なんです。」
「じつぞん…」
龍次は、二人の会話を聞いているだけだった。




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