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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第88回   萩(はぎ)の花
庭の隅っこで、ひかえめで可憐な萩(はぎ)の花が、初秋の風に揺れていた。
「お兄ちゃん、これ、ハギっていう花なんだって。」
「知ってるよ。」
「さすがは高校生だわ。」
「誰が教えたん?」
「保土ヶ谷さん。」
「ふ〜〜ん、保土ヶ谷さんは花にも詳しいんだなあ。」
「あっ、そうだ!」
「なんだよ?」
「保土ヶ谷さんが、お兄ちゃんに、古いパソコンあげるって言ってたわ。」
「そうだそうだ、この前、新しいパソコンが入ったら、古いパソコンが不要になるから、あげるって言ってたんだよ。」
「うわ〜、そうなの!」
「今、取ってこようかな。」
「お兄ちゃん、パソコンが欲しかったんでしょ?」
「ああ、欲しかったよ。学校で持ってないのは俺だけなんだよ。」
「え〜〜、そおなのぉ。」
「インターネットで小説家になるって言ってたよね。」
「ああ、そうだよ。仕事もいっぱい探せるしな。これで、トマトの新しい栽培情報も探せるぞぉ〜。」
「頑張ってね、お兄ちゃん!」
「保土ヶ谷さん、いつ来いって言ってた?」
「いつでもいいって言ってたわよ。」
「そぅか〜〜!じゃあトマトと大根とジャガイモを積んで今すぐ取りに行こう!」
「トマトと大根とジャガイモを積んで行くの?」
「お礼だよ。我が家にはトマトと大根とジャガイモしかないからな。」
「お茶もあるわよ。」
「あっ、そうか。じゃあ、お茶も持って行くか。」
「ご飯はどうするの?」
「先に食べてな。」
「すぐ帰ってくる?」
「すぐ帰ってくるよ。」
「じゃあ待ってるわ。」
「そうか、…じゃあ待ってろ。急いで帰ってくるから。」
「うん!わたしにも少し触らせてね。」
「駄目だよ。真由美はまだ子供だから。」
「子供は駄目なの?」
「壊すから、駄目。おもちゃじゃないんだから。」
「壊さないわよ。」
「子供には難しくって分からないの。」
「そんなに難しいの?」
「ああ、高校生くらいにならないと分からないの。」
「そんなに難しいんだ。テレビとは違うんだ。」
「テレビとは違うよ。」
「そうなんだ。」
「ちょっとは教えてあげるよ。」
「わ〜〜、良かったぁ!」
「俺、小屋から野菜取ってくるから、一番大きなお茶の入った袋を一つ取ってきてくれ。」
「一つでいいの?」
「一つでいいよ。お茶は高いんだから。」
「はい。」
お兄ちゃんは、小屋にある野菜をダンボール箱に入れると、リアカーに積みんだ。
少女が、お茶の入れてある大きなビニールの袋を渡した。
「はい!」
「お〜、さんきゅ〜!」
お兄ちゃんは、再びリアカーを引いて基地に向かって出発した。
少女は、お兄ちゃんが見えなくなるまで手を振っていた。
「お兄ちゃ〜ん、頑張ってぇ〜!」
お兄ちゃんは、「お〜〜っ!」と言いながらリアカーを引いていた。
三毛猫のタマが、草むらから出てきて、少女の足元でニャ〜〜ンと鳴いて止まった。
「タマは、お兄ちゃんがいると出てこないんだねえ。」
タマは、またニャ〜〜ンと鳴いた。
「気が合わないのかなあ。」
再びタマは、ニャ〜〜ンと鳴いた。
いつの間にか、空は濃いブルーになっていた。いつの間にか月がコントラストを強めていた。気まぐれな雲が月の前を漂っていた。
少女は、少し首を傾げながら月を見た。
「今日のお月さんは、顔が半分しかないね。」
タマは黙っていた。近くの笹の林から、風でゆれる笹の擦れ合う音が聞こえていた。
「真由美ちゃ〜〜〜ん!」
母の声だった。
「は〜〜い!」
少女は家の中に入って行った。濃いブルーの中に残されたタマは、その場所から動こうとはしなかった。


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