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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第86回   沖縄交差法拳法
アニーは、ベッドから起き上がり、空手の型みたいな動きで踊りだした。見得を切るような格好で叫んだ。
「不動明王、ここにあり〜!」
「どっ、どうしたのアニーさん!?」
更に踊りは続いた。そして、同じような所作で見得を切った。
「即身成仏(そくしんじょうぶつ)、ここにあり〜!」
姉さんは見抜いた。
「それは、沖縄交差法拳法!」
アニーは踊りながら答えた。
「さすが、葛城古武術・くれないり流の使い手。見破りましたか。」
「攻めと守りが同時の沖縄交差法拳法と見た!」
「その通りです。」
アニーは倒れそうになり、踊りを止めた。
「アニーさん、大丈夫?」
「まだ少し、熱があるみたい。」
「急に踊りだしたものだから、びっくりしちゃったあ。」
「わたしも何がなんだか?急に身体が動き出したんですよ。狐でも憑いたのかしら?」
カランコロンと、ドアベルが鳴り響いた。姉さんは我に返った。
「誰かしら?」
姉さんはドア越しに返事をした。
「どなたですか?」
「となりのログハウスの者です。」
女性の声だった。
「さきほど、父がお世話になった萩原です。」
「あ〜〜、萩原さん。今開けます。」
姉さんは静かにドアを開けた。
長い髪のジーパン姿の女性が立っていた。右手に木刀を持っていた。
姉さんは、その木刀を見てびっくりした。
「ぅわ〜〜〜!」
姉さんは、思わず後ずさった。思わず、両手をアゴの位置まで持ち上げ、紅流の半身の構えになっていた。
女性は慌てて、頭を下げた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
木刀を下に置いた。
「こっちの方から猛獣が叫んでるような、大きな声がしたもんですから。」
姉さんは女性に近づき、改めて応対した。
「あ〜〜、びっくりした。思わず中段前蹴りが出るところでしたよ。」
「中段前蹴りって、空手ですか?ま〜〜ぁ、怖い。」
「つい反射的に出ちゃうんです。出なくて良かった。猛獣の大きな声ですか?」
「はい。わぉ〜〜〜っと言ってました。」
「あ〜〜〜、分かりました。案山子(かかし)です。」
「案山子(かかし)?」
「ハイテク案山子です。何かが近づいたら吠えるんですよ。」
「ああ、そうなんですか。」
「窓の外に立てて置いてあるんです。」
姉さんは出て行った。姉さんは、吠太郎の前まで、女性を案内した。近づくと、目玉が光り、わぉ〜〜っと吠えた。
「これです。」
「あ〜〜〜、これなんですか。さきほどの声と同じです。」
「ごめんなさい。スイッチを切っておきます。」
「いや、分かればいいんです。」
「畑ではないので不要ですね。しまっておきます。」
「熊避けかなんかですか?」
「そうなんです。ときどき誤動作するんですよ。」
「そうなんですか。」
「とにかく、夜はうるさいので動かないようにしておきます。」
「それがいいですね。あっ、そうだ、父が自然薯お好み焼きを食べに行きましょうって言ってました。旨いお店を知ってるみたいなんです。」
「そぉなんですかあぁ!」
「明日のお昼なんですけど、一緒に行きますか?高野山の中ではありませんけど。」
「う〜〜ん、どうしようかなあ…、遠いんですか?」
「1時間ほどのところです。」
「1時間…」
「何か、御用でも?」
「御用って言うか、いちおう仕事で来ているもので。」
「ああ、そうなんですか。じゃあ駄目ですね。」
「そうですねえ。よろしく言っておいてください。」
「はい。」
女性は頭を下げると、隣のログハウスの方に去って行った。
姉さんは、ぶつぶつ言いながら帰ってきた。
「役に立たない案山子(かかし)だなあ〜〜。」
アニーが尋ねた。
「どうしたんですか?」
「どこをやれば、スイッチを切れるのかしら?」
「案山子(かかし)ですか?あっ、そうだ。説明書がそのビニールの袋の中に入ってます。」
「あっ、この中ね。」
「はい。」
ビニール袋の中に、折り畳んだ小さな紙があった。
「あ〜、これだ。どれどれ…」
姉さんは、小さな紙を広げると、まるで敵(かたき)でも見るように睨んで見た。
「…センスの悪い説明書だなあ。」
福之助が、姉さんの隣にやってきて覗いた。
「そんなにセンスが悪いんですか?」
「なんだいこりゃあ。作ったやつの顔が見てみたいよ。」
「どこに住んでいるんでしょうね。」
「横浜あたりじゃないのか。」
「なんでですか?」
「じゃ〜〜〜ん、とか言ってたよ。」
「鎌倉や横須賀あたりも、じゃんって言いますよ。」
「でも、横浜のは、じゃ〜〜〜んって伸ばすんだよ。」
「ああ、そうなんですか。」




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