きょん姉さんは、真剣な顔で検索に没頭していた。 「あったぞ、あったぞお!」 福之助とアニーは、黙って見守っていた。 「高野山の自然薯お好み焼き…、これだこれだ。」 福之助とアニーは、顔を見合わせた。それから、再び姉さんを見た。 姉さんは、独り言を呟いていた。 「すりおろした自然薯に冷めた炒り子だしを加えてしっかりとすりあわせます…、なるほどなるほど!野菜や肉を入れ、塩・こしょうで味付けし…、かつおぶしをふりかけて、しょうゆをかけて食べます。なるほどお〜、醤油で食べるのかあ、ここがみそだなあ〜〜!」 アニーが尋ねてきた。 「分かりました?」 「あるにはあるんだけど、どこでどういうものをやってるのか表示されてないなあ…」 「おそらく、高野山内だったら、どこでもあるんですよ。」 「そうなんですか。」 「明日、お昼になったら食べに行きましょう。」 「ああ、それはいいですねえ。せっかく高野山に来たんだから。」 福之助は、率直に意見を述べた。 「観光に来たんじゃないんですよ。お仕事、お仕事。」 「おまえは硬いねえ。」 「金属でできたロボットですから。」 「お昼の食事までは管理されてないだろう。」 「そうですね。今の意見は却下します。」 「おまえ、いきなり裁判官みたいな口調になってるよ。」 「そうですかね?」 姉さんは、アニーに改めて尋ねた。 「でも、アニーさん。大丈夫?」 「たぶん、大丈夫です。」 「じゃあ、一緒に行きましょう。」 福之助は二人の人間を睨んでいた。 「わたしは、…お留守番?」 そう言うと姉さんを見た。即座に頷きながら姉さんは答えた。 「そういうことになるかな。なにか買ってきてあげるよ。」 「何もいりませんよ。ロボットですから。」 「頭を冷やす冷却ヘッドパッドとか?」 「そんなの要りませんよ。失礼だなあ〜。」 「なんかないのかよ?」 「何も欲しくありません。」 「そうかい。あんたは欲がないねえ。」 「そんなのありませんよ。」 「お坊さんみたいだねえ。」 「そうかも知れません、ね!」 「修行もしてないのに偉いやつだよ。」 「しゅぎょう?」 「修行知らないの?」 「知りませ〜ん。」 「…滝に打たれたりしてるの、テレビで見たことないの?」 「あ〜、あれですか。あれを修行って言うんですか?」 「あれだけじゃないけどな。」 「あんなのやってたら、水が入ってショートしますよ。わたしは完全防水じゃありませんから。」 「あ、そうなの。」 「新型の、紋次郎みたいなロボットだったら大丈夫ですけど。」 「ふ〜〜ん、そうなんだ。脚も早いし、大したやつだなあ。」 「どうせわたしはポンコツ偏平足ロボットですよ。」 「ごめん、ごめん。そういう意味じゃないんだよ。」 「大丈夫です。ロボットには、僻んだり妬んだりはありませんから。あるがままに動いてるだけですから。」 「偉いねえ。悟ってるねえ。」 「別に偉くもないし、悟ってもいませんよ。ただ時計のように動いてるだけです。」 「じゃあ、生まれながらに悟っているんだねえ。」 「そうですかねえ?」 アニーが起き上がり、福之助を指差した。 「それを、即身成仏(そくしんじょうぶつ)と言います!」 アニーの気迫のある声に、姉さんは驚いた。 「そくしんじょうぶつ!?」 静寂が部屋に篭(こも)った。福之助の目はダイヤモンドのように光り、きょん姉さんの金縛りの術にかかったように固まって動かなくなっていた。 アニーの気迫のある声が、再び部屋に響いた。 「不動明王、ここにあり〜!」 姉さんは、唖然としながらも、アニーの言葉を信者のように復唱していた。 「ふどうみょうおう…」
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