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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第83回   吠太郎(ほえたろう)
「お兄ちゃん、いつの間にか、蝉(せみ)の泣き声が聞こえなくなったね。」
「蝉は、夏に生まれて秋には死んで行くんだよ。ちょっとだけしか生きられないんだよ。」
「可哀想ね。」
「そうだなあ。」
突然、草むらから猫が出てきた。三毛猫だった。
「あっ、タマだ!」
タマは少女の顔をちらりと見ると、すぐに道を渡っていなくなってしまった。
「この前、うちの庭で蛇を退治したんだよ。」
「そうかよ〜!」
「とっても強いのよ。びっくりしちゃった。」
「蛇って、大きかったんかよ?」
「うん。」
「そりゃあ凄いや。毒蛇もいるから絶対に近づいたら駄目だぞ。」
「うん!」
「そうか、そんなに強いのか、タマは。」
「猫は人間の味方だね。」
「そういうことだな。」
「猫がたくさんいると安心だね。」
「…そうかなあ?」
リュックを背負い、天体望遠鏡を持った五人の集団が歩いていた。熊避けのラジオを鳴らしていた。
一人の男が尋ねてきた。
「転軸山(てんじくさん)の天体観測広場は、こっちの方でいいんですか?」
お兄ちゃんは親切に答えた。
「こっちじゃなくって、ログハウスを過ぎて左です。看板があります。」
指差した。
「あっちです。」
「どうもありがとうございます。」
集団はログハウスの方に向かって行った。
「あの人たち、星を見に行くの?」
「そうだな。」
「暇な人たちね。」
「そうだな。」
「夜は寒くなるのに。」
「そうだな。」
「お兄ちゃん。そうだなばっかりだよ。」
「…そうだな。」
「また!」
「わっはははは!」
お兄ちゃんは大笑いした。
「お兄ちゃん、お腹空いてるんでしょう。」
「うん、ちょっとな。」
「さっき、どっちが勝ったの?」
「さ〜〜あ、どっちだろう?」
「お兄ちゃんが勝ったに決まっているわ。」
「もんちゃんも早かったよ。」
「そうかなあ?早く治るといいね、もんちゃん。」
「そうだな。」
「…そればっかり。」
「今日は、何作ったんだよ?」
「お兄ちゃんの好きな、カレーライス。」
「何カレー?」
「何カレーでしょうか?」
「チキンカレー!」
「当たり〜〜!どうして分かったの?」
「保土ヶ谷さんが、この前チキンをあげるって言ってたからな。それだろう。」
「そうでえす!」
「保土ヶ谷さんって、親切だなあ。」
「あっ、そうだ。」
「なんだよぉ?」
「朝、お兄ちゃんが出た後、保土ヶ谷さんと、もんちゃんがやってきて、肉と熊避けの案山子(かかし)を置いて行ったの。」
「熊避けの案山子(かかし)?なんだいそりゃあ?」
「動物が近づくと大きな声で吠えるの。見れば分かるわ。」
「あ〜〜、そういえば、肉のほかにいいものあげるって行ってたなあ。」
「裏庭に立ててあるわ。」
「最近、そういう案山子(かかし)よく見るなあ。どこから持ってくるのかなあ?」
「近づくと吠えるんだよ。」
「赤外線だな。」
家に到着すると、二人は裏庭に周った。
「あれよ。」
「あれか…」
「もっと近づけば、吠えるわ。」
二人は近づいて行った。
ワオ〜〜〜!っと吠え出した。
「ほらね。」
「どうやったら止まるんだ?」
「離れると止まるわ。」
「そのほかには、止め方はないのかな?」
「後ろにスイッチがあるって言っていたわ。」
お兄ちゃんは、案山子の後ろに廻った。
「これだな。」
スイッチをオフにした。吠えなくなった。
案山子の背中に製品名が書いてあった。
「ハイテク案山子(かかし)…吠太郎(ほえたろう)、ふ〜〜ん。」
「どこで売ってるんだろうね?」
「…インターネットだな。」
「誰が作ったの、こんなもの?」
「…りゅうじア〜ラびっくりアイデアショップ・製作責任者・保土ヶ谷龍次、う〜〜ん?」
「保土ヶ谷さんが作っているの?」
「そうだなあ…」
「こんなの作っているの?」
「見たことないなあ。」
「そうだねえ。」
「いつか聞いてみよう。」
「これ、センス悪いわあ〜。」
「りゅうじア〜ラびっくりアイデアショップ。会社の名前からして、センス悪いよ。」
「これ、犬なの?」
「狼男かな?」
センスの悪い狼顔の案山子(かかし)が、二人を睨んでいた。
「これで熊さん、逃げるのかしら?」
「どうかなあ?」
「ぶっ飛ばされるんじゃないかしら?」
「そうだなあ。」



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