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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第81回   Hit Me !
ガソリン車に乗ったガソリン猿人の暴走車が、野蛮なエンジン音を轟(とどろ)かせて通り過ぎて行った。
少女は咳き込んだ。ガソリン臭が漂っていた。
「ごほん、ごほん!」
お兄ちゃんが、少女の背中をさすった。それから、通り過ぎて行ったガソリン車を睨んだ。
「真由美、大丈夫か?」
「だいじょうぶだよ、お兄ちゃん。」
少女は、小児喘息だった。
「銃があったら、ぶっ殺してやるのになあ。」
「ごほん、ごほん!」
「大丈夫か?」
「もう、だいじょうぶ。」
「まったく、ああいう連中は、いったい何考えて生きてるんだ?」
紋次郎が、その問いに答えた。
「何も考えてないんですよ、ああいう人たちは。ただ楽しんでいるだけなのです。」
「だったら、子供と同じだな。」
「子供じゃなくって、猿ですよ。」
「だから、ガソリン猿人って言うのか。」
「そうなんですね。」
「悲しい連中だね。」
「はい。」
少女は元気になっていた。
「じゃあ、わたしが、ヨーイドンって言ってあげるわ。ここに並んで。」
お兄ちゃんと紋次郎は、位置についた。
「よ〜〜〜い!」
いたずら者の風が、シャイな草花をくすぐるように揺らしていた。
「どん!」
お兄ちゃんと紋次郎は走り出した。スタートは、ほぼ同時だった。
「がんばれ〜〜、お兄ちゃ〜ん!」
家の前にゴールしたのは、ほぼ同時だった。
紋次郎が、何かに躓いてドーンと転んだ。
顔面から倒れ込んだ。
お兄ちゃんは驚いた。
「おい、大丈夫か?」
紋次郎は黙っていた。
「おい、もんちゃん!」
紋次郎は、壊れたような声で返事をした。
「大丈夫です。」
少女がやってきた。
「もんちゃ〜〜ん、だいじょうぶ〜?」
紋次郎は、なかなか起き上がろうとはしなかった。
「大丈夫です。」
「なんか、変だよ。」
「…左足が、ちょっとおかしい。」
紋次郎は、ぎごちなく立ち上がった。左足を少し浮かせていた。
「もんちゃん、だいじょうぶ?」
「足首がおかしい。力が入らない。」
「お兄ちゃん、もんちゃん、変だよ。」
「そうだなあ…」
「足首のバネが外れたみたいだ。」
「歩けるの?」
紋次郎は歩いて見せた。びっこを引いていた。
「やっぱり駄目だ。外れてる。帰って修理しなきゃあ。」
「帰れるの?」
「時間はかかるけど、なんとか帰れるます。」
「それじゃあ、無理よ。」
お兄ちゃんが、紋次郎の肩を叩いた。
「ここで待ってな、リアカー持ってくるから。」
「リアカー?」
お兄ちゃんは、急いで家の裏に置いてあったリアカーを引いて、直ぐに戻ってきた。
「運んであげるよ。はい、乗って!」
「これに乗るんですか?」
「そうだよ。乗れる?」
「はい。」
紋次郎は注意深くリアカーに乗った。そして静かに身を屈めて腰を下ろし、脚を伸ばした。
「迷惑をかけて、すみません!」
「行くよ!」
「はい。お願いします!」
お兄ちゃんの引いたリアカーは、ニート革命軍の人間村に向かって、ゆっくりと走り出した。
「お兄ちゃん、わたしも行く〜!」
「おまえはいいよ。」
「わたしも行くよ〜〜!」
少女は泣きそうな顔になっていた。
「しょうがないなあ。」
「靴と、このリアカーを家の中に入れてくるから、待ってて!」
「ああ、待ってるよ。」
少女は直ぐに戻ってきた。
「行こう、行こう!」
「お母さんに、ちゃんと言ってきたわ。」
「さっき俺も言ってきたよ。ロボットが動けなくなって、リアカーで運んでやるって。」
二人は、人間村に向かって歩き出した。紋次郎は、月を見ながら黙って乗っていた。
少女は、なぜかうきうきしていた。
「もんちゃん、だいじょうぶ?」
「大丈夫でござんす!」
「もんちゃんて、変な言葉。」
紋次郎が呟(つぶや)いた。
「兄弟って、いいですねえ。」
その呟きに、少女が即座に反応した。
「何て言ったの?」
「わたしも月も、ひとりぼっちでござんす。」
月は、ただ紋次郎の目のように青白く冷たく光っていた。
少女は歌いだした。

 運命なんて信じない 狂ったブギで踊ってる〜 ♪
  明日まで逃げ切れるなら〜 タフなファンクで飛び越えろ〜 ♪
   ロックステップ 天国と地獄を同時につれてくる ロックステップ〜〜 ♪
 キャルビンがくれたキャンディ〜 なめながら〜 ♪
  ロックステップ ロックステップ〜 冷め切った現実 突き抜けろ〜 ♪ 
    ヒットミイ〜 ♪ ヒットミイ〜 ♪ ヒットミイ〜 ♪

お兄ちゃんも歌いだした。

 冷め切った現実 突き抜けろ〜 ♪ タフなビートで切り抜けろ〜〜 ♪

二人は声を合わせて大きな声で歌いだした。

  hit me〜 ♪ hit me〜 ♪ hit me〜 ♪


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