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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第80回   一本勝負
少女は駆け出した。
「お兄ちゃ〜〜ん!」
そして、お兄ちゃんの前で、ぴたりと止まった。
「お兄ちゃんみたいに早くなったでしょう!」
お兄ちゃんは、微笑んでいた。
「ああ、早くなったよ。」
少女の目は、涙で潤んでいた。
「どうしたん?」
少女は、右腕の長袖の袖をまくってみせた。包帯が巻かれていた。
「さっき、転んじゃったの。」
「どこで?」
「ログハウスの近く。」
「また、走ったんだろ?」
「違う。よそ見をしてたら転んだの。」
「よそ見なんかしてたら駄目じゃないか。」
「うん。でも、今日はトマトが全部売れたんだよ。」
「良かったなあ。」
「うん。」
「それで、嬉しくなって、はしゃいで転んじゃったんだな。」
「そうかも知れない。」
「血出たんか?」
「ちょっとだけ。」
「真由美の欲しがっていた、赤い靴を買ってきたぞ。」
お兄ちゃんは、ビニール袋に入った靴を差し出した。
「ほら!」
「わ〜〜ぁ、あの靴だぁ!」
「おまえの欲しがってた靴だよ。これだと早く走れるぞ。」
「これじゃあ、走れないわ。」
「なんでだよ?」
「走ったら、靴が可哀想だわ。」
「可哀想?」
「うん。それに大事に履かないと、早く壊れるわ。」
「真由美は、ケチだなあ。」
「せっかく、お兄ちゃんが買ってくれたんだもん。」
「そうか。」
「お兄ちゃん、いいものもらったの。」
「いいもの?」
「あのロボットのおじさんに。」
「ロボットのおじさん?」
少女が紋次郎を呼んだ。
「もんちゃ〜〜〜ん!」
ロボットの紋次郎が、ロボットな足どりで、とぼとぼとやってきた。深く頭を下げた。
「はじめまして。あっしは、ニート革命軍に居候(いそうろう)している、補佐ロボットの紋次郎というものでござんす。」
「ござんす?」
「このリアカーを差し上げにきました。」
紋次郎は、リアカーを引いていた。黄色のアルミの小さなリアカーだった。
「自転車用の軽いものでござんす。誰も使わなくって、捨てようと思ってたものでござんす。」
お兄ちゃんはリアカーを見た。
「これ?」
「そうでござんす。」
「ただでくれるの?」
「そうでござんす。」
「保土ヶ谷さんが、いいって言ったの?」
「そうでござんす。」
「まあだ新しいね。」
「そうでござんす。」
少女が、お兄ちゃんの顔を覗いた。
「お兄ちゃん、これいいよ。トマトがいっぱい積めるよ。」
お兄ちゃんが、少女を見下ろした。
「これ欲しいの?」
「うん!」
紋次郎が、少女の応援にでた。
「どうぞ、お使いください。」
「じゃあ、頂くよ。どうもありがとう。」
お兄ちゃんは、頭を下げ礼を言った。
「わ〜〜〜、良かった!」
少女は歌いだした。そして、紋次郎とリアカーの周りを楽しそうにロックステップで踊りだした。

 赤い靴〜赤い靴〜 ランランラン ランランラン〜 ♪
  真っ赤なトマト リアカーに積んで〜 ランランラン ランランラン〜 ♪

転軸山(てんじくざん)から吹き下ろす風がBGMな音で、ヒューヒューと吹いていた。

「お兄ちゃん、さっき転んだときに、お姉さんに助けてもらったの。トマトを全部買ってくれたお姉さん」
「そうか。どこのお姉さん?」
「ログハウスのお姉さん。」
「じゃあ、俺が後で礼を言いに行ってくるよ。」
「うん!」
「お兄ちゃん、もんちゃんがねえ。お兄ちゃんよりも早いって言うのよ。」
「えっ?」
「走るのが速いって。」
紋次郎が、お兄ちゃんの顔を見た。
「あっしは走るのが得意なんでござんす。」
「ああ、そう。それはおもしろいねえ。」
「家の前まで、勝負いたしませんか?」
「勝負?」
「一本勝負でござんす。」
「柔道の試合みたいだね。いいよ。」
「じゃあ!」
紋次郎の目が青白く光った。モーター音が高速になって唸りだした。
「なんか、壊れそうな音だねえ…」
「大丈夫でござんす。」


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