カラスがカァ〜カァ〜と鳴きながら、山々に向かって飛んでいた。 紋次郎は、そのカラスを見ていた。 「カラスはいいなあ、いつも帰るところがあって・・」 少女は、直ぐに戻ってきた。 「何かあったの?」 「ううん。知らない人と話したら駄目よって。」 「最近は、変な人が多いからねえ。」 「人じゃなくって、ロボットよって言ったら、じゃあいいわだって。」 「あっ、そう。」 「ロボットに悪いロボットはいないって言ってたわ。」 「ロボットは、人間には悪いことしないようになってるんだよ。」 「そんなんだ。」 少女は歌いだした。
運命なんて信じない 狂ったブギで踊ってる〜 ♪ 明日まで逃げ切れるなら〜 タフなファンクで飛び越えろ〜 ♪ ロックステップ 天国と地獄を同時につれてくる ロックステップ〜〜 ♪ キャルビンがくれたキャンディ〜 なめながら〜 ♪ ロックステップ ロックステップ〜 冷め切った現実 突き抜けろ〜 ♪ ロックステップ ロックステップ〜 ロックステップ〜〜 ♪ 運命さえも塗り返る タフなビートで切り抜けろ〜〜 ♪ 今日が もしもあるのなら 踊り続けるファンキィナイト ♪ ロックステップ ロックステップ〜 ロックステップ〜〜 ♪ 天国と地獄を同時につれてくる〜 ロックステップ〜〜 ♪
少女は、楽しそうに踊りだした。 紋次郎も、少女の真似をして歌いながら踊りだした。
ロックステップ ロックステップ〜 冷め切った現実 突き抜けろ〜 ♪
「いつも、お母さんが歌ってるの。」 「何て言う曲?誰の曲?」 「プライベーツのファンタジアって曲よ。」
ロックステップ ロックステップ〜 タフなビートで切り抜けろ〜〜 ♪
「お母さんは、絶対に泣いたりなんかしないの。」 「強いんだね。」 「とっても強いの。」 「あなたの名前は、何て言うの?」 「紋次郎(もんじろう)。」 「もんじろう。ふ〜〜〜ん。」 「おかしい?」 「おかしくないけど、変わった名前ねえ。それに言いにくいわ。」 「だったら、…もんちゃんでいいよ。」 「もんちゃん…」 紋次郎は、少女をじろりと見た。 「きみは、真由美ちゃって言うんだ?」 「そうよ。」 少女は、沈み行く太陽を見ていた。 「さようなら。」 「さようなら?」 「お日様に言ったのよ。」 「お日様に?」 「だって、お日様の仕事は、もう帰って山の中で寝る時間でしょう。」 「…うん、そうだね。」 「お日様。また明日会いましょう。」 「また明日会えるよ。」 「意地悪な夜が終わったら、きっと会えるわ。」 「そうだね。」 「夜は嫌いよ。」 「なんで?」 「だって、綺麗な花や真っ赤なトマトを見えなくしてしまうんだもの。とっても意地悪だわ。」 「そうだね。」 「大っ嫌い!」 「じゃあ僕も、大嫌いってことにするよ。」 「それがいいわ。」 「もうすぐ秋だね。」 「秋になると、お日様みたいに山の色が赤くなるのよ。とってもとっても、お日様の真似をするの。」 「どうして真似をするの?」 「だって、秋の次は寒い寒い意地悪な冬が来るでしょう。」 「うん、そうだよ。」 「だから、赤くなって山を暖めるのよ。」 「…そうなんだ。」 「お兄ちゃんが、天国は雲の上にあるって言っていたわ。」 「…うん、そうだね。」 「お父さんに、いつかきっと逢えるって、言っていたわ。」 「…きっと逢えるよ。」 「早く逢いたいなあ。酔っ払いの歌を一緒に歌いたいなあ。」 「きっと逢えるよ。」 「もんちゃんも、一緒に歌いましょう。」 「うん、いいよ。」 少女は、しゃがれた甲高い声で歌いだした。紋次郎も歌いだした。
通りゃんせ〜 通りゃんせ〜 ♪ 行きは良い良い 帰りは酔っぱらい 酔っぱらい ♪
「もんちゃん、上手くなったね。」 「そうかなあ?」 紋次郎は、道の方角に首を回転させた。 「お兄ちゃんみたいな人がやってくるよ。」 「あっ、ほんとだあ!」 少女は叫んだ。 「お兄ちゃ〜〜〜ん!」 お兄ちゃんが手を振りながら、やって来るのが見えた。少しはしゃいだ優しい風が吹いていた。
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