老人は、すっかり上機嫌になっていた。 「人間、ぼやぼやしてると、生活に追われて死んでしまいます。」 「そうですね。」 「人間は死ぬために生きているのです。」 「えっ?」 「生きる物は、皆死ぬために生きているのです。」 「…」 「だから、日々の自分の人生を大切にして生きなければいけません。」 「はい。」 「偉い人間は、時間が余った暇なときに自分を育てるのです。」 「自分を育てる?」 「そうです。怠けていたら、いつの間にか棺桶の中です。生きてる時間は短いのです。」 「そうですね。」 「人生は、自分の心を探す旅です。」 「心を探す旅?」 「はい。自分の心は、誰も教えてはくれません。自分の心は自分で探すのです。」 「なんだか難しそうですね。」 「それは、間単に生きようとしてるからです。楽に生きようとしているからです。」 「…」 「楽あれば苦ありと言います。車ばっかり乗ってると、身体は衰え後で苦しみます。」 「そうですね。」 「自分の心を甘やかしてはいけないのです。」 「はい。」 「人生は悲しいほどに短いのです。」 「はい。」 「生きてる間に、何を成したか、それが問題なのです。」 「はい。」 「自分は何のために生まれて来たのか、早く見つけることです。そしたら幸せになれます。」 「そうですねえ。」 姉さんの携帯電話から、レベッカのフレンズが鳴り出した。姉さんは携帯電話を取った。 「はい、もしもし…」 合言葉は無かった。 『先ほどは、電話をかけてくれてどうもありがとう!』 自然薯(じねんじょ)の龍次だった。さっきと、声が違っていた。 「すみません、間違って電話したんです。ごめんなさい。」 『そうなんですか。じゃあ、また間違って電話してください。たいへん失礼しましましたじゃ〜〜ん。』 電話は、一方的に切れた。 「じゃ〜〜ん、だって。横浜の人かなあ?マンションに住んでる感じだなあ。」 声が違っていたことが気になった。ひょっとしたら、音声変換かしら?と思った。 老人は、ニヤニヤと笑っていた。 「恋人かな?」 「そんなんじゃありませんよ。ただの自然薯(じねんじょ)です。」 「じねんじょ?」 「いや、こっちの話で。」 「自然薯と言えば、高野山の自然薯は、とってもおいしいんですよ。」 「そうなんですか?」 姉さんの目の色が変わった。 「そんなにおいしいんですかあ?」 「驚くような粘りと独特な甘い香りが、高野山の自然薯の特徴です。」 「そうなんですか。」 「高野山のお好み焼きって、ご存知ですか?」 「いいえ、そのようなものは。」 「ご存じない?」 「はい。」 「自然薯が入っているんですよ。」 「そうなんですか。」 「自然薯かあ・・」 駐車場の方から、二人の女性がゆっくりと歩いてやって来るのが見えた。 老人は振り向いた。きょん姉さんも振り向いた。 「おっ、帰ってきた。」 「…」 「妻と娘です。近くの温泉まで行ったんですよ。」 「じゃあ私は、これで失礼します。」 「あっ、そう。また遊びに来てください。遊びじゃなくって、絵のモデルに。」 「はい。」 「いや〜〜、語ってしまったなあ。お宅のロボットが変なことを聞くもんで、つい余計なことを。」 「えっ、何て聞いたんですか?」 「人間は、何のために生きてるんですか?ってね。変なロボットだねえ。」 「ごめんなさい。最近、ちょっと変なんです。」 「面白いロボットですね。新型ですね。」 「じゃあ、失礼します。」
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