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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第76回   帰りは酔っぱらい
紋次郎は、川沿いの道をトップギヤで、モーター音を響かせ早足でとんとんとトントン拍子で走っていた。
「急げぇ、急げ〜〜ぇ!」
少女の喜ぶ顔が電子の脳裏に映っていた。
「バッテリーは、ビンビンだぜぇ〜。ぶっとばそうぜぇ〜。」
ここには魚たちが生きている川があり、動物たちが生きている山々があった。
「ぼ〜くらは、みんな生きている〜ぅ♪」
トマト売りの少女の家は、ニート革命軍の基地の近くにあった。今にも壊れそうな家だった。
「よし、ここだ。きっと喜ぶぞ!」
少女は、家の前の階段にちょこんと座り、月を眺めながら歌を歌っていた。しゃがれた甲高い、特徴のある声だった。

 通りゃんせ〜 通りゃんせ〜 ♪
  行きは良い良い 帰りは酔っぱらい 酔っぱらい ♪

「その歌、間違ってるよ。」
「あっ、ロボットのおじさん!」
「おじさんじゃなくって、おにいさん。」
「ロボットのおにいさん!」
「その歌、間違ってるよ。」
「そうかしら?」
「行きはよいよい、帰りは怖いって言うんだよ。」
「そうなの?」
「誰が教えたの?」
「お父さん。」
「お父さん?」
「去年死んだ酔っぱらいの、お父さん。」
「死んだの?」
「うん、交通事故で死んだの。天国に行ったの。」
「そうなの、悲しいねえ。」
「うん。」
「お父さんが、帰りは酔っ払いって、教えたんだね。」
「いつも、この道をよろよろしながら帰ってくるの。この歌を歌いながら。」
「そうだったんだ。」
少女は、紋次郎が引いているリアカーを見た。
「それ、なあに?」
「そうだ、そうだ。これ、あげるよ。」
「わたしに?」
「そう。トマトを沢山積めるよ。」
「ほんとだ。」
「これ、もういらないんだよ。」
「そうなの?」
「うん。」
「ただでもらってもいいの?」
「いいよ、いいよ。龍次さんが、持って行きなさいって言ったんだ。」
「保土ヶ谷さんが?」
「そう、保土ヶ谷さんが。」
「ありがとう〜!」
「よかった。」
「でも駄目だわ。」
「どうして?」
「お兄ちゃんに聞かないと、怒られるわ。」
「お兄ちゃんがいるの?」
「うん。」
「お兄ちゃんは、何歳?」
「十六才よ。高校生なの。」
「だったら、僕が話してあげるよ。」
「もうすぐ帰ってくるわ。」
「どこに行ったの?」
「コンビニ、コンビニで働いてるの。六時まで。」
「ああ、そうか。お兄ちゃんを、ここで待ってるんだね。」
「そうなの。いつもここで待ってるの。」
「じゃあ、僕も一緒に待っててあげるよ。ここに座ってもいいかな?」
「いいわよ。」
「食事は終わったの?」
「しょくじ?」
「ご飯は食べたの?」
「ちょっとだけ食べたわ。」
「何を食べたの?」
「トマトとパンよ。お兄ちゃんが買ってきてくれたマンゴージャムをつけて食べたの。とってもおいしかったわ。」
「マンゴージャムが好きなんだ?」
「マンゴージャムは、とってもおいしいわ。ロボットのおにいさんも好きなの?」
「マンゴージャム?」
「うん。」
「僕は、マンゴージャムは食べられないんだ。」
「何が好きなの?」
「そんなものはないよ。」
「何を食べてるの?」
「電気。」
少女は、家の近くの太陽光充電街路灯を指差した。
「でんきって、この電気?」
「そうだよ。」
「ふ〜〜〜ん。どうやって食べるの?」
「食べるんじゃなくって、吸い取るの。」
「すいとる?おいしいの?」
「ちっともおいしくなんかないよ。」
「どんな感じ?」
「ビリビリって、そういう感じ。」
「そんなの食べちゃあ駄目よ。身体に悪いわ。病気になるわよ。」
「仕方がないんだよ。」
「いろんなものを食べないと、身体に悪いわよ。」
「これしか食べられないんだよ。」
「可哀想なロボットのおにいさん。」
「食べたのは、それだけ?」
「お兄さんが帰ってきたら、一緒に食べるの。それまでは我慢するの。」
「そういうことか。」
「そういうことで〜〜す。」
「ご飯は、ちゃんと食べないと、人間はいらいらして馬鹿になります。」
「そうなの?」
「そうなんです。ご飯は、誰がつくってるの?」
「お母さん。でも病気だから、外には出られないの。」
「病気じゃ、仕方ないね。」
「うん。」
「遅いなあ、お兄ちゃん。」
「いつもは、もっと早いの?」
「うん。お兄ちゃんは足が速いの。」
「そうなの、じゃあ僕と同じだあ。」
「ロボットのおにいさんも早いの?」
「そうだよ。」
「お兄ちゃんと、どっちが早いかなあ?」
「さ〜〜〜あ、やってみないと分からないよ。」
「お兄ちゃんがのほうが早いに決まってるわ。」
「どうかな?」
「運動会で、いつも一番なんだから。」
「それは、すごいなあ〜。」
「高野山で一番早いんだから。」
「競争してみたいなあ。」
「あんたなんかには負けないわよ。早いんだから。」
「やってみないと分からないよ。」
「お兄ちゃんが勝つに決まってるわ。」
家の中から声がした。
「真由美ちゃ〜〜ん。」
「あっ、お母さんが呼んでる。」
少女は、家の中に駆けて行った。紋次郎は、月を見上げながら歌いだした。

 通りゃんせ〜 通りゃんせ〜 ♪
  行きは良い良い 帰りは酔っぱらい 酔っぱらい ♪


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