ショーケンが食堂に向かって歩いていると、前から、女子高生風の二人がやってきた。競うように楽しむように、歌いながら歩いていた。一人はギターを抱えていた。 「おっ、カスケーズの悲しき雨音だ。」 ショーケンは、彼女たちの前で足を止めた。 「いい選曲だねえ。君たち、高校生?」 二人が同時に答えた。 「はい。」 「そんな歌、どうして知ってるの?」 右の女子高校生が答えた。 「だって、有名な曲ですもの。」 「まあ、そうだけど。」 左の女子高校生が、まじまじとショーケンの顔を覗いていた。 「この人、どこかで見たことあるわ。」 ショーケンは微笑んだ。 「僕みたいなのは、どこにでもいるからね。」 「ううん、その顔は、どこにでもは無い顔だわ。」 「そうかなあ…、君たち、何かやってるの?音楽に関したこと?」 「軽音楽部にいます。」 「そうか、道理でね。もう一度、今の歌、歌ってくれない。」 「いいですよ。」 二人は同時に答えた。そして、同時に歌いだした。
Listen to the rhythm of the falling rain, Telling me just what a fool I've been. I wish that it would go and let me cry in vain, And let me be alone again.
ショーケンも歌いだした。
Now the only girl I care about has gone away. Looking for a brand new start! But little does she know that when she left that day. Along with her she took my heart.
二人の少女は、びっくりした。 「わ〜〜、じょうず〜!」 「歌手みたい!」 ショーケンは軽く会釈した。 「ありがとう。楽しかったよ。」 手を振って歩き出した。 「また、どっかで逢ったら、一緒に歌おう!」 少女たちは、黙ってショーケンを見送った。
降りしきる雨音のリズムを聞くと お前は何てバカなんだって言っているみたいだ 雨なんて消え去ってむなしく泣かせてくれればいいのに もう一度ひとりにしてほしいのに
「白い建物って言ってたなあ・・」 食堂は、さらさら流れる川のそばにあった。 「あれだな。」 食堂の近くで、隊員らしい男が大きな岩に腰掛け、川を眺めながら煙草を吸っていた。 ショーケンに気がついた。 「あっ、ショーケンさんだ。」深く頭を下げた。 仕方なく、ショーケンも軽く会釈した。 「休憩?」 「そうです。」 「いいねえ、高野山は、平和で。」 「はい。」 「食堂は、ここだよね。」 「はい、そうです。」 ショーケンは、白い建物の中に入って行った。 おいしそうなカレーの匂いがしていた。 大きな木製の縦長のテーブルが四つあって、五十脚ほどの椅子があった。 二十人くらい座っていて、黙々と食べていた。テレビはあったけど、映ってはいなかった。 ショーケンを見る者もいたが、ちらりと見るだけだった。 カレーを食べている者もいたが、ラーメンみたいなものを食べてる者もいた。定食みたいなものを食べている者もいた。 厨房(ちゅうぼう)にエプロン姿の者が三人いて、それぞれに仕事をしていた。 厨房の前の壁に、料理の献立表みたいなのが貼ってあった。 「定食、カレーライス、ラーメン…、これだけ?」 厨房から女性が出てきた。 「そうです。」 「値段、書いてないじゃん?」 「カレーとラーメンが五百円、定食が六百円です。」 「定食って、何?」 「今日は、岩魚の塩焼きと辛子(からし)れんこん、高菜の油炒めです。味噌汁がついてます。」 「じゃあ、それちょうだい。」 「はい。」 料理が出来るのを、テーブルの椅子に座って待っていると、龍次とアキラが入ってきた。 「よ〜〜、兄貴、ここにいたの?」 「終わったのかよ?」 「まだだよ。タイヤが硬くて、けっこう難しい。」 アキラはショーケンの隣に座り、龍次は、ショーケンの前に座った。 「時間がかかりそうだから、食べてからってことにしたんですよ。」
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