「兄貴〜、俺達このまま、ここで掃除でもやっていようよ。」 「ああ?」 「そのほうが楽じゃん。自分で考える必要もないし。」 「…」 「兄貴みたいに、変なことを考える必要もないし。」 「変なことって、何だよ?」 「夜逃げ救助隊、とかさ。」 「困った人を助ける、クリエイティブな立派な仕事だよ。」 「そうかなあ?」 「あれは、傑作の仕事だよ。」 「あんなの駄目だよ。」 「いつまでも、いい大人が人の世話になって、どうすんだよ。」 「いいじゃん。そのほうが楽だよ。」 「そういうのをな、奴隷根性って言うんだよ。」 「どれいこんじょう?」 「何も考えないで、牛や馬のように働くことだよ。」 「何も考えてないってことはないよ。」 「食うとか、セックスとかはな。そういうのは、本能って言うの。知恵じゃないの。」 「知恵?」 「知恵!猿とかは物を作れないだろう。クルマとかテレビとか。」 「そんなの作れるわけないじゃん。作ったら、大変だよ。大ニュースになっちゃうよ!」 アキラの手を、蟻がはっていた。 「あっ、蟻だ!」 アキラは、強く手を振り、蟻をはらった。 「たとえば、蟻が核ミサイルで人間に復讐とか?」 「おまえ、面白いこと言うね。」 「そぉ〜お?」 「漫画家の才能があるよ。」 「そうかなあ?」 「ああ、とっぴだよ。今のはびっくりしたよ。」 「漫画家ねえ…」 コンコン、ノックがあった。「保土ヶ谷です。」 アキラが返事をした。 「どうぞぉ〜。」 龍次が、のこのこと二人の部屋にやってきた。 「ファンの方は、もう帰られたんですか?」 アキラが答えた。 「兄貴のファンね。ちょっと前に帰っちゃたよ。」 「そうですか。」 「また、将棋やりに来たの?」 「違います。頼みがあって来ました。」 「頼み?」 「アキラさんは、パンクの修理とかできますか?」 「自転車くらいならできるよ。」 「リアカーなんです。」 「やったことないけど、できるんじゃないのかな。」 「そうですか。ちょっと、修理してもらえませんかねえ。」 「道具はあるの?」 「あります。」 「じゃあ、やってあげる。」 「じゃあ、お願いします。」 龍次とアキラは、部屋から出て行こうとした。龍次が立ち止まった。 「ショーケンさん。夕食を作るのが面倒だったら、食堂がありますから、どうぞ。白い建物です。」 「あっ、そぉお。」 「食堂で食券を買ってください。」 「ああ、そうなんだ。」 二人は部屋から出て行った。 ショーケンは煙草を吸っていた。煙草を座卓の上の灰皿に押し付け消火すると、立ち上がった。 「食堂ねえ、奴隷根性で行ってみるか。」 出て行こうとしたが、ふと立ち止まった。 「ちょっと待てよ。」 ショーケンは、急須に残っていた緑茶を灰皿に流し込んだ。 「よし、これで大丈夫。」
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