ショーケンが諭(さと)すように、少女に言った。 「日が暮れる前に帰ったほうがいいぞ。変な奴が出てきて食べられるぞ。」 「もうじき帰るよ。」 「こんなとこ、年寄りとかが来るとこだろう。」 「まあね。」 「普通の家出ってのは、新宿と原宿に行くんじゃないの。」 「まあね。」 「ひとりで、よくこんなとこまで来たなあ。たいしたもんだ。」 「あたし、ひとりが好きなの。」 「こんな山の中、お寺でも見に来たのか。」 「そう、お寺を見に来たの。」 「じゃあ、早く見て帰ったほうがいいぞ。」 アキラが自動販売機に硬貨を入れながら言った。 「もうすぐ三時になっちゃうよ。」 「分かってますよ。」 「兄貴は、コーラ?」 「うん。俺は日本茶でいいよ。」 少女は携帯電話を出して、時計を見た。 「4時になったら帰るんだ。」 アキラが、赤い自転車を見ながら、少女に質問した。 「その自転車、どうしたの?」 「これは、レンタル。」 「レンタル。」 「一日千円で貸してくれるよ。」 「ふ〜〜ん。安いねえ。」 「教えてあげようか。」 「兄貴、どうする?」 「そうだなあ…高野山は、けっこう広そうだしなあ。」 「すっごい広いよ。ショーケンさん。」 ショーケンは、びっくりした。 「なんで知ってんだよ、俺の名前?」 アキラもびっくりした。 「どっかで逢ったのかな?」 「だって、テンプターズのショーケンにそっくりだもん。」 アキラは少し笑っていた。 「ショーケンって、昔のアイドルだよ。知ってるわけないじゃん。」 「お母さんがファンだったの。小さい頃に、よくビデオを見てたの。」 「なるほどね。」 「でもそっくりねえ。双子みたい。」 「実は、この人ね…」 「アキラ。余計なこと言うな。」 「写真に撮ってもいいかしら。」 ショーケンは、しぶった。 「それは、ちょっと駄目だな。」 「なんで?」 アキラが、「写真は、駄目。」と言って、両腕をクロスさせた。 「警察にでも追われてるの?」 ショーケンは正直に言った。 「そういうこと。」 「ああ、分かった。頭脳警察ね。」 「よく分かったねえ。」 「ここに来る人って、そういう人が多いんだよ。」 「あっ、そうなの。」 「天狗の昼寝公園に、そういう人が沢山いるわよ。」 「えっ、何それ?」 「ニート革命軍の人たち。」 アキラが、びっくりした。 「ニート革命軍!あいつら、ここにいるんだ!」 「まだ公園で、カリスマ龍次先生が演説してるよ。」
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