老人は、夕陽に染まる山々を眺めながら、筆を持ち静かに佇んでいた。 福之助は窓際に立ち、不思議そうな目で老人を見ていた。 姉さんは、トマトを眺めていた。 「いいトマトだなあ。」 福之助が、姉さんを呼んだ。 「姉さん、あの絵描きの人、何をしてるんでしょうねえ?」 仕方なく姉さんがやって来た。そして、佇む老人を見た。 「何かを待ってるみたいだねえ。」 「待ってる?」 「そういうふうに見えるけど。」 「何を待ってるんでしょう?」 「さぁ〜〜?」 「遠くを眺めてますけど。」 「そんなに気になるんだったら、尋ねてきなよ。」 「そうですね。」 そう言うと、福之助は出て行った。 「素直なやつだなあ。」 福之助は、老人の前で頭を下げていた。少し話すと、すぐに帰ってきた。 姉さんは、戻ってきた福之助に早速尋ねた。 「どうだった?」 「それが分からないから、待ってるって言ってました。」 「それが分からないって、待ってるものが分からないってことかい?」 「はい。」 「ふ〜〜ん、変なの、変な答え。」 「そうですねえ。答えが理解できないので、帰ってきました。」 「わたしも分からないね。ましてやロボットじゃ無理だな。」 「芸術家じゃないと分からない?」 「そうかもね。芸術家というのは、人種が違うから。」 「あっ、そうだ!」 「なんだよ?」 「姉さんは、美人かね?って聞いてきたから、はいって言うと、モデルになって欲しいって言ってました。」 「え〜〜、なんだって!?それを早く言わんかい!」 「夕陽と美女ってのが、やってきたって言ってました。」 「夕陽と美女…」 窓の外では、老人が姉さんに向かって手を振っていた。 「おまえ、何て返事したんだよ?」 「たぶん駄目でしょうけど、尋ねてきます。って返事しました。」 「だから、手を振ってるんだよ、あの人。」 「そうですね。」 「わたし、美女だけどさあ〜、困ったなあ〜。」 「ほんの五分でいいと言ってました。」 「五分ねぇ…」 「早くしないと、太陽が沈んじゃいますよ。」 「そうだね、そうだね!」 「行くんですか?」 「ああ、美女と言われたら仕方ないね。」 姉さんは、ニコニコしながら出て行った。
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